「先生は大っ嫌い」も「楽しかった」…高知の女子硬式高校野球、熱血監督の覚悟

高知中央高校で女子硬式野球部が始動【写真:大森雄貴】

高知中央高女子野球部を指揮するのは室戸高前監督の西内氏

 2019年4月より高知中央高校で、女子硬式野球部が始動する。監督は2018年度まで、室戸高校女子硬式野球部を率いていた西内友広氏である。人口減少が著しい高知県で室戸高に続き、2校目となる女子硬式野球部を新設した。その背景には、女子野球界全体を見据えた上で、西内氏の並々ならぬ“覚悟”が感じられた。

 1997年に全国高等学校女子硬式野球連盟が発足し、第1回全国高等学校女子硬式野球選手権大会が開催された当初は、数校しか存在しなかった。しかし、現在では27校まで加盟している(全国高等学校女子硬式野球連盟HPより2019年1月28日現在)。野球部を立ち上げることは簡単なことではない。現在、男子の野球競技人口は、少年野球から中学の部活動、高校に至るまで減少の一途をたどっている。さらに、高知県全体でも、過疎化の波が押し寄せ、少子化や人口減少が生じている。

 私立高知中央高校女子硬式野球部の誕生は、監督の西内友広氏から始まった。

 西内氏は大学卒業後、高知中央高校の男子野球部で部長などを担当していた。その後、1年間を女子ソフトボール部の顧問を任される中、女子スポーツに触れた。その際、同じ高知で、女子野球に力を注いでいた室戸高女子野球部に誘われた。当然、私立から県立の室戸高校へ行く決断は容易ではなかった。もちろん臨時採用になるが、室戸市を巻き込んで、未開拓の女子野球にかけていたその気心に動かされた。

 室戸高を指導し始めたのは約2年前。まだ発展途上な女子野球であり、手探りであったが、必死に指導した。結果、2016年の第20回記念全国高等学校女子硬式野球選手権大会ベスト8の成績を残した。2017年度に卒業し、女子プロ球団「レイア」に入団した久保夏葵投手も育てるなど、女子野球指導者として掴み始めていた。

 だが、室戸高校は公立高校であり、2018年4月から本採用の教員が女子硬式野球を受け持つことになった。これまで女子野球に携わっていたが突然、振り出しとなった。しかし、女子野球を高知県内で、より一層普及すべく県内の様々な学校に声をかけた。当初は、中高一貫に声かけたが良い反応は得られなかった。

 西内氏は覚悟を決めた。スポーツに力を入れているという条件も揃うこともあり、以前在籍していた高知中央高校に学校史上初めての“出戻り”をした。

全国を渡り歩いて有望50選手をチェックもスタートは11人

 4月より高知中央高校で立ち上がる女子硬式野球部について西内氏に話を聞いた。

「何人もフラれましたが、11人でスタートすることができます」

 高知県からは4人、四国からは徳島と愛媛、さらには広島、福岡、そして東京からも入学者が集まった。全国の様々な大会に顔を出し、およそ50人に声を掛けた。集まった11人でまずは船出する。

 西内氏も大学まで野球を続け、教員として初めは男子野球部の顧問を務めた。甲子園出場へ猛勉強し、記した野球ノートは30冊を超えた。しかし、女子野球と出会い、指導する中、ノートをすべて捨てた。

「女子野球と関わり始め、感じた女子選手たちの純粋な想いですね。『野球を楽しみたい! 上手くなりたい!』という想いが彼女たちの源であり、野球をする理由である。私のノートは、戦術や細かい技術など応用的なことばかりでした」

 室戸高時代を含め、5年以上、女子野球に携わり、考え方も変わった。

「柵越えホームランや140キロを投げさせたい。男子プロ野球に憧れて入ってくる選手が大半。そこに憧れている以上、目指して指導する。でも、現実は達成できない部分をバントや作戦などで補う」

 ルールは当然男子と同じであるが、野球に対する情熱は純朴で、真っ直ぐだ。勝負にはこだわるが、彼女たちの目標を叶えたい。

「西内先生のことは大っ嫌いですが、監督とした野球は楽しかったです」

 西内氏は、監督椅子には座らない。選手たちと同じ目線に立ち、動きを示しながらボトムアップ式の指導をする。

「男子とは、教えることは同じでも、身体は違う。高校生でも、基本から徹底して教えます。指導者自身で、動きを示しながら説明する。女子の方が飲み込みは早いですね」

 今後の女子野球の未来についても考えている。

「教え子で『西内先生のことは大っ嫌いですが、監督とした野球は楽しかったです』と言われたことがあった。そして、彼女が指導者として戻りたいと言ってくれたことが嬉しかった」

 現状の女子野球では、高校野球を終えた後の選択肢が非常に少ない。“女子野球をする意味”を今一度考えなければならない。未来の選手たちへ魅力を伝えることができる女性指導者の必要性も説く。

 最後に、新設する高知中央高校女子野球部の魅力を聞いた。

「女子野球の普及発展を願っている。私は、女子野球の監督を“やりたくて”監督をする。やらされているわけではないです」

「野球がしたい!」と願う女子選手たちに、高知県で誰よりも女子野球を想う監督がいる。高知県には全国でも珍しいことに県内に2校の女子野球チームがある。彼女たちが全国に名を轟かせる日が楽しみである。(大森雄貴 / Yuki Omori)

© 株式会社Creative2