「貧困は平和を脅かしかねない」 子どもへの施策にぬくもりを

インタビュー 長崎大教育学部准教授 小西祐馬氏

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 日本国憲法は前文で「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」としているが、貧富の格差が拡大していると感じている国民も少なくない。「子どもの貧困」研究が専門の小西祐馬・長崎大教育学部准教授は「貧困は平和を脅かしかねない」と指摘する。貧困と平和の視点から現代社会の姿を聞いた。

 -子どもの貧困率は2015年時点で13.9%(7人に1人)となり、過去最悪だった12年の16.3%(6人に1人)から改善された。
 基本的には良かったと思うが、貧困とされる年収は4人世帯なら244万円未満で、これを少しでも超えたら貧困とはとらえられない。数万円増えたとしても生活がどれほど楽になるのだろうか。長崎県のような地方の現場の実感として、問題の深刻さはそう変わっていないだろう。支援者からは貧困はむしろ増えているのではないかとの声も聞かれる。ちょっと気になる子どもや保護者がいて、その背後には虐待や育児放棄などがあって、またその背後には貧困があると。

 -格差が拡大し、貧困層の固定化が指摘されている。
 「1億総中流」と言われていた1980年代、生活保護世帯は今ほど多くなかったが、「貧困の世代的再生産」は既に問題になっていた。親の代は何とか持ちこたえたが、非正規雇用の拡大などが影響し、子どもが安定した職に就けず生活保護世帯となり、貧困層が増えて固定化していった。

 -そのように貧困は「個人の責任」と言えない側面がある。
 「努力すれば何とかなる」と言う人もいるが、努力のもとになるのは何なのか、そこを問う必要がある。例えば大学入試。受験生は親の励ましやサポートが頑張れる要因の一つだが、低所得層の場合、親が期待していないという傾向もみられる。私が4年前、長崎市内の保育園児の保護者を対象に実施したアンケートでは、「大学・大学院」への進学期待は年収500万円以上の「高所得層」は7割近かったが、300万円未満の「低所得層」は半数もいなかった。もちろん高学歴が「勝ち組」とは限らないが、正規の雇用率は大卒、大学院卒が高い。それ以外のルートは非正規雇用が増加したこともあり、相対的に不安定な状態が続いている。今後、人工知能(AI)の発達でさらに仕事が奪われるなどと予測されており、職に就けずプライドを傷つけられる人が増える可能性はある。

 -国の対策をどう見るか。
 過去15年、20年のスパンで考えると、公立高の授業料無償化や子どもの貧困対策法施行など、子どものために公費を使おうとの社会的合意が少しずつでも形成されてきたのは良い流れだ。一方、昨年10月から生活保護世帯の67%で、食費や光熱費といった生活費に当たる「生活扶助」の支給が減額され、子どものいる世帯の43%で引き下げられた。最も声を上げられないところから削っている。貧困はパワーレスやボイスレスにつながり要求が抑えつけられる。生活保護受給者はその事実を周囲に知られたくないし、声を上げても「自己責任」の空気から社会の賛同を得られないと思うのかもしれない。
 話が少しそれるが、日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告の事件で、巨額の報酬について識者が「決して高くはない」「これが世界基準」といった趣旨のコメントをしていたが、まったく同意できない。グローバルに広がる圧倒的格差を感じざるを得ない。派遣切りで職を失った人たちはどう思ったのだろう。社会に不満が蓄積されると、人々が冷静な判断をすることが難しくなり、ポピュリズム(大衆迎合主義)につながりかねない。

 -2006年、「31歳フリーター」が「希望は、戦争」とし、格差や不平等を打破するため「戦争が起き、たくさんの人が死ねば、日本は流動化する」と書いた雑誌の論文が注目を集めた。
 当時は仮定の話で済んだかもしれないが、一昨年、北朝鮮の核・ミサイル開発危機で政府が「最大限の圧力を」と強調していた時にこの論文が発表されていたらリアリティーを帯び、危険視しなければならないほどの空気があった。貧困や差別などがなく人権が守られている状態「積極的平和」がないがしろにされると、単に戦争のない状態「消極的平和」も脅かされかねない。
 天皇陛下が昨年12月の会見で「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵(あんど)しています」と述べられたが、確かにそうだ。日本は明治、大正、昭和のいずれの時代も戦争をしたが、平成は憲法前文にあるように「平和のうちに生存する権利」を、少なくとも戦争をやらなかったという意味では守ることができた。
 戦争は悲惨だ。昨年夏、先の大戦の戦争孤児のドキュメンタリー番組を見たが、駅で暮らす子どもが飢えて亡くなるのに、気に掛けてくれる大人はいなかった、と元孤児が打ち明けていた。別の元孤児は皮膚病にかかった背中を保護施設の指導員が銭湯で洗ってくれたことを振り返り、「食べ物に飢えてた、着る物もなくて寒かったけど、本当にほしかったのはぬくもりです」と語っていた。
 抽象論になるが、子どもの貧困対策もぬくもりが必要だ。長崎県も実態調査に取り組んでいるが、その結果を基に施策を練り、すべての子どもがぬくもりを感じられるようにしてほしい。そうして人権が守られ戦争のない状態が、真の平和につながると思う。

インタビューに応じる小西准教授=長崎市文教町、長崎大