第7回「驚きの! 味がしない!! のは大問題ーー。」

阿佐ヶ谷ロフトAで、宮台先生と古谷経衡さんと「平成とはなんだったのかvol3」1月21日。

脳卒中になって、後遺症というと大袈裟だけど、なかなか人に言えないこともあって。じつは味覚がわかんなくなっちゃったんですよ。何を食べても味がイマイチよくわからない。まったくではないんだけど、かつて3Dカラーで感じていた味覚が、白黒になってしまった感覚。平面的で躍動がない。つまんない。

味が死骸のようで、何を食べても味がない。まあ、「ない」ということではないんだけど、ぼやけてる。響いてこない。味の感覚が鈍磨している。それに気がついたのは入院しているときで、でもその時は、「病院食は味が薄いからそう感じるのだろう」と思ってとうがらしをぶっかけていた。すると、味はわからないんだけど刺激だけがガーン! とヒリヒリとくる。一番効くのは山椒だ。し、痺れる! 多量の香辛料をかけると苦みが強くなって、それが舌に新鮮でもあるし。

ところがーー。退院してサイゼリヤに行ってみると、全然味がしない。え…! な、なにこれ。辛味チキンは単にぐんにゃりしてるだけで味がない。ハンバーグはギトッと肉ではない別の刺激がきて、そっから先の味がしない。オリーブオイルをつけて美味しいはずのミニフィセルも、なにこれ甘ったるい、パンじゃないじゃん! 愕然としたね。

あわてて、吉野家とかケンタッキーとかマクドナルドとかウェンディーズとか、いろいろ行ってみたんだけど、数か月前まで普通に食べてたものが全部不味い。…脳卒中の後遺症で感覚マヒになっちゃって、突然食べ物がまずくなっちゃったよ! という、それが今月注目したい自分の大問題なんですよ。

手染めのふんどしをもらった!

味がしないのに“不味い”てのも奇妙な話だが、でも本当にそれがリアルな感覚で。あわてふためくよね。ある日突然、気づくと味が無くなっていた。まあ、表現を変えて、「味覚の感覚がぜんぜん変わってしまった」とも言えるんだけど。味が無くなって、今までのすべてが不味くなったのと逆に、美味しいと思うようになったものもある。美味しく感じるのはキノコ類、豆腐、タラ。塩を使ってないナッツ。味覚麻痺して強い味のものを好むようになったかというと、そうではないんですよ。味がないものが美味しい。小松菜。ほうれん草。そういったそもそも味が弱いものを、単に蒸して(あるいは電子レンジして)、味付けをしないでそのまま食べる。すると美味しい。かつお節をかけたりも味が強いので、そっちに持ってかれちゃうので少しだけでいい。とにかく味付けはいらない。もうね、塩も醤油も味噌も砂糖もだし、市販のドレッシングとか出汁醤油とか、強すぎてぜんぜんだめ。味というより刺激しか感じない。マヨネーズとかべっちょりして味がなくてもう最悪。

樋口毅宏さんと浅原くん、九龍ジョーさんと新年会で。

餃子は酢だけで食べてます。それでも王将のは刺激が強くて舌がついていけなくて、味がわからない。味覚は失ったけど香りはわかる。それに風味もわかるんです。それで、風味を感じることで、味としてとらえているみたいなんですよ。外食ではなかなかないから自分で味のないものを作ってる。味付けしなくていいから楽だ。蒸すのが一番いい。食感というのはどうやら味とセットになって嬉しいものらしく、味を感じなくなったらどうでも良くなった。

うう、うまい。カッテージチーズとかナッツとか。白身の魚。春菊。味はないけど風味がわかる。じんわりとそれが味のようで。普通のチーズは味の刺激が強すぎてわかんない。おでんの豆腐も良く味がするような気がする。

新宿のベルクのホットドッグは、記憶でもわかるけど、パンの風味を良く感じたーー。次からはマスタードなしにしようと思う。

そういうわけで、今朝も、いつものように、タラ(この魚が一番うまい!)とキノコと野菜を味付けしないで蒸して、なんもかけないでご飯をたべる。納豆のたれを半分入れたら刺激が強すぎて、風味が飛んでわかんなくなってしまうので、2滴くらい入れる。自分で笑っちゃう。なにこれ☆☆! そんなもの食べて何喜んでるの!? という。でも、旨いんだもん。脳卒中という宴のあとのマヒはこんな風に影響が出ていて、舌の半分が痺れてることで、たぶんこんなことになってるんだろうなあ。麻痺の「ま」は麻薬の麻。なんかほんと、ある種のドラッグのバッドトリップのような状況で、これはなかなか痺れますよ。味覚を失った人…はい! ちなみに、刺身は生臭いほうが生の魚を感じて美味しくて、醤油はつけません。醤油をつけると生の魚の風味が消えてしまう…うるうるうる。グルメぶって言ってるわけじゃないから。単なる障害だから、これ。

海猫沢めろん先生とファンの人。

で、いろんなものを食べたり飲んだりして調べてるんだが、酒はどうかというと、テキーラや焼酎のような強い酒は、アルコールの刺激がガーン! と強すぎてついていけない。いっぽうで、ビールは味がよくわかるようになった。味がないのになぜか味を濃く感じる。サイゼのワインもそう。こんな濃い味だっけ? というくらい。

という感じで、これはもう自分にとって大問題で、味がしないってどうよ…というさ。どうもこうもないけどさ。

それでも友人と外食すると楽しいわけ。厳密には味はしないんだけど、となりで友人が、「うまい!」とか声をあげてると、自分もまた記憶のなかで味を感じている…ような気がする。夢の中の味のような。あいまいだけど確かに味みたいな。記憶というのは風味のようなものなんだね。それは味ではないけれども、でも味をもたらすんだーーと、びっくりしてる昨今でございます。

※ 2月13日(水)ロックカフェロフトで月一定期集会「水曜日は脳卒中」があります。今回のテーマは、『脱法ドラッグとミュージックを高次脳で考察する』です。19:30スタート、よろしくどうぞ!

次回は宮台真司×古谷経衡×わたくしのイベントは4月!

月1定期イベント!

© 有限会社ルーフトップ