史上初のプロ初登板1球勝利投手 元楽天右腕が米国で歩む第2の人生

アジアンブリーズに参加している元楽天・横山貴明【写真:豊川遼】

2014年のプロ初登板初勝利は1球勝利の珍事で話題に

 プロ野球の春季キャンプが始まり各球団の選手たちはペナントレースに向けて調整を行っている。その一方、昨年限りでチームを離れて新しい道を歩む選手もいる。楽天を戦力外になった28歳右腕・横山貴明投手もその1人である。

 福島・聖光学院から早稲田大学を経て2013年ドラフト6位で楽天に入団した横山は翌年8月30日のソフトバンク戦(Koboスタジアム宮城・現楽天生命スタジアム)、7回表2死二塁の場面でプロ初登板を果たすと今宮健太内野手に初球を痛打され失点するもその後、今宮の走塁死によりチェンジ。その裏、チームは一挙8得点で逆転し横山に嬉しいプロ白星がついた。これが史上初となるプロ初登板での「1球勝利投手」となった。その後は先発3試合を含む4試合に登板し1勝2敗、防御率5.40の成績でプロ1年目を終えたが、その後、成績が伸びず、2017年に育成契約を結んだ。

 2軍戦で結果を残して支配下選手に戻ることを目指していたが、シーズン途中で右ひじを痛め、リハビリに励む日々が続いた。リハビリの間は「野球がやりたい」という気持ちを原動力としていたという。2018年5月に復帰したが、2軍戦でわずか6試合でしか投げることができず、オフに戦力外通告。NPBでのプレーを目指し、トライアウトを受けた。

「シーズンは途中から(戦力外になることを)覚悟していました。通告を受けてからトライアウトまで1か月半の期間があり、うまく調整ができました」

 自信満々でトライアウトを受験したが、実際にマウンドに立って投げてみると制球ができず打者3人と対戦し2安打を許して不完全燃焼でテストを終えた。独立リーグやクラブチームからオファーがあったが、NPBの球団を優先に考えていたこともあり進路については慎重になっていた。

投球フォームも変え、Wリーグとアジアンブリーズに参加

 NPB球団からオファーがなかったが、横山本人は既に新しい挑戦を決めていた。海外でのプレーを目指していくことだった。2月13日からフロリダでウインターリーグ、そして2月21日からはアジアンブリーズに参加することを決意した。

 フロリダでのウインターリーグは「ベースボールスカウティングリーグ」と呼ばれ、集結したMLBや米国独立リーグなどのスカウト陣の前で高みを目指して選手たちが試合を通じてアピールをする場。また、アジアンブリーズは米国独立リーグでのプレー経験を持つ色川冬馬氏が創設し米国内で試合をしながらプロ契約を目指すトラベリングチームだ。アジアンブリーズには横山をはじめ20名の選手が参加し、選手たちはMLB傘下のマイナーチームや米国独立、メキシカンリーグチームと対戦することができる。

 横山は米国でのプレーに向けて練習を続けており、投球フォームをこれまでのオーバースローからサイドスローに変更。武器のチェンジアップやスライダーに加えて新たに140キロを超える直球を自由に動かす技術を習得した。新球については「オーバースローのときは決め球がありませんでしたが、今は動く球があります。先発のときは打者に粘られて球数が多くなる傾向があったのでそれを減らしたいですね」と習得の意図を語った。

 近年では日本から海外でプレー機会を求める選手が増えつつあり、横山にとっても米国でのプレーは初になる。選手はもちろん、言語や環境など日本とは違う点が多いものの、横山の表情はとても明るく、喜びに満ちていた。「英語はまったくダメなので最近、ポケトーク(自動翻訳機)を買いました。言葉こそ違いますが、野球をすることはこれまでと変わらないのでそれに集中するだけ。米国で新しいものをどんどん吸収していきたいですね」

 念願のプロ野球選手となり、1軍でも白星を飾った横山は故障で苦しんだ時期もあったがこれからが本人にとって本当の野球人生の始まりといえるだろう。横山は「楽天にいたときは打者に投げる機会が少なかったので米国では純粋に打者と対戦する喜びを感じたい」と力強い決意を語った。野球選手としてだけではなく、1人の人間としても成長するために異国の地に旅立ち、奮闘している。果たしてどのような投球をみせてくれるのだろうか、米国での奮起に期待したい。(豊川遼 / Ryo Toyokawa)

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