演奏者目線のオーケストラ 大都会に響くオーケストラ③

演奏者目線のオーケストラ
「オーケストラ・オブ・セントルークス(OSL)」コンサートマスターでバイオリニストの田中直子さんが、楽団の歴史を振り返る。

田中直子さんバイオリニスト。東京都出身。1972年にジュリアード音楽院入学、1974年に「オーケストラ・オブ・セントルークス」立ち上げに参加、現在コンサートマスターを務める。「オルフェウス」「ニューヨーク・フィロムジカ」にも参加していた。ジュリアード、ニューヨーク大学などで教える。

ーバイオリンを始めたきっかけは?
4歳の誕生日に、両親が子供用バイオリンを買ってくれたことですね。桐朋学園の音楽高校在学中に、先生に米国留学を勧められ、1972年にニューヨークのジュリアード音楽院に入学しました。

ー当時のニューヨークのオーケストラシーンは、今とどう違いましたか?
今でこそアジア人演奏家が増えましたが、アジア人は圧倒的に少なかったですね!第二次世界大戦の戦禍(せんか)を逃れた、ヨーロッパからの移民が多かったです。そして私が来た当時は、ベトナム戦争の徴兵などで街が混乱していました。誰もが生きること、生活することに必死でしたね。日本人の私も、為替が1ドル360円の時代でしたから、ニューヨークでの生活は大変でしたよ。

Orchestra of St. Luke’s(oslmusic.org)<コンサート情報>2月10日(日)2pm-@ブルックリン美術館 室内楽シリーズ「Mozart Clarinet Quintet」28日(木)8pm- @カーネギーホール 「Beethoven’s Second Piano Concerto with Paul Lewis」

ーOSL創設の経緯は?
気の合った音楽仲間たちで、自由に演奏しようと集まりました。最初は室内楽(10人以下)ぐらいの規模。楽団名は、グリニッジビレッジに「セントルークス教会」という場所があり、そこで定期的に演奏会をしていたことが由来です。ウェストチェスターで毎夏開催される「カラムーアフェスティバル」という音楽祭に、80年代に初参加したのをきっかけに、楽団として大きく成長していきましたね。
現在のOSLは、オーケストラとして円熟し、とてもよいコンディションです。2018-19年シーズンから、新たな指揮者を迎え入れ、いい方向に向かっているのではないでしょうか。
演奏の場をジャンル問わず設けている他、青少年への音楽教育にも力を入れています。私自身も、ジュリアードやニューヨーク大学で教えています。

ー田中さんが務める「コンサートマスター」とは?
オーケストラの中心に位置取り、音楽の「舵取り」をします。多数のパートで構成されるオーケストラの音がバラバラにならないよう、全員がうまく「波」に乗れるように気を配るのが私の仕事。個人的に、オーケストラの音楽が「人間の声で喋り掛けている」ように観客に届くことを意識して、演奏しています。

ー観客にどう演奏を楽しんでほしいですか?
難しく理解しようとせず、肩の力を抜いて「いい音だな」と楽しんでもらえればうれしいです。もちろん、パンフレットなどを事前に読んで、その作品や演奏家について知ると、さらに奥深い体験になりますが、何よりも自分の感性を信じることが大切です。

ーニューヨークでお気に入りのコンサート会場は?
たくさんありますが、カーネギーホールは建物が古いからなのか、とても上質な音が反響しますね。名だたる演奏家が演奏したという歴史が積み重なっていることもあって、心地いい音楽が生まれるのではないでしょうか。

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