第65回:G20各国の企業における「レジリエンス・スコア」 FTI Consulting / Resilience Barometer 2019

(出所)FTI Consulting / Resilience Barometer 2019

コンサルティングファームのFTI Consulting社が2019年1月に「Resilience Barometer 2019」という調査報告書を公開した。これは G20構成国にある大企業の経営者2248人を対象として、企業が様々な脅威に対してどの程度の備えができているかを評価した結果をまとめたものである。

具体的には図1に示されている18のシナリオに対して、これらが発生した頻度や売上に対する実際の影響の大きさ、およびどの程度これらに関するリスクマネジメントに取り組んでいるかを調査した結果をもとに「レジリエンス・スコア」を算出し、その比較検討を行っている。

写真を拡大 図1. 調査において設定された18のシナリオ(出所)FTI Consulting / Resilience Barometer 2019

算出されたレジリエンス・スコアを国ごとに集計して比較した結果が本稿のトップに掲載した図であり、日本が52点でトップとなっている。本報告書では、日本企業では他国に比べて内部での信頼性が高く、また今後12カ月の間に事業変革(business transformation)を開始する(もしくはそれを計画する)可能性が最も高いと指摘されている。

また本報告書では、平均(図中で「G20」と書かれている部分)より上にある10 カ国のうち6カ国が新興国であることに注目している。この点に関して本報告書では、新興国のほうがビジネス環境がより不安定(volatile)なため、そのような国にいる企業のほうが先進国の企業よりもよりレジリエントになる可能性があると述べられている。

一方、平均よりも下にある国々においては、それぞれ異なる困難があることも指摘されている。例えば最下位となった韓国では、調査対象となった企業の半数が、市場の独占に関する調査が現在進行中であると回答している。またフランスとドイツでは、政府や政治家に対する企業の不信感のレベルが、他のG20の国々よりも高いという。コーポレート・ガバナンスの観点では、ロシアの大企業の経営者は自社のディスクロージャーに対する評価が低く、G20の平均を下回っているとのことである。

図2はレジリエンス・スコアを業種別に集計して比較したもので、金融業がトップとなっている。これは2008年の金融危機以降、当局による規制が厳しくなった結果であろうと考えられている。しかしながら金融業の各社が、規制当局から罰金を課せられることを防ぐために積極的に取り組んでいるにもかかわらず、金融業にとって最大の脅威は「サイバー攻撃によって資産が盗まれたり損なわれたりすること」であり、しかも今後増加することが懸念されているという。

図2.業種別レジリエンス・スコア(出所)FTI Consulting / Resilience Barometer 2019

金融業に次いでスコアが高いのが飲食料品(Food & Beverage)と消費財(Consumer Goods)の業界である。近年のICTの発達によってB to C企業の経営環境が急速に変化し(注2)、これによってビジネスモデルの変革を迫られ、主体的にリスクマネジメントに取り組んだために、他のB to B企業よりも様々な備えが進んだのではないか、というのが本報告書における見立てである。

本報告書では以上のような調査結果概要に続いて、テクノロジー、事業変革、ステークホルダーとの関係、規制、ESG(環境・社会・ガバナンス)、投資といった観点からの分析と考察が記載されており、幅広い視野から企業のレジリエンスを考える上で示唆に富む報告書となっている。

■ 報告書本文の入手先(PDF24ページ/約1.8MB)
https://ftiresiliencebarometer.com/

注1)G20にはEUが含まれているので、実際の調査対象国はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ、ロシア、中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、オーストラリア、韓国、インドネシア、サウジアラビア、トルコ、アルゼンチンの19カ国である。

注2)本報告書では「change and impact of digital convergence」と表現されている。なおdigital convergenceとは1995 年に米マサチューセッツ工科大学のNicholas Negroponte教授によって提唱された考え方で、「デジタル技術や通信技術の発達によって、放送・通信・出版など異なるメディアが一つに収斂(convergence)される」というものである。

(了)

 

© 株式会社新建新聞社