『盆唄』 悠久の時間を描き切ったドキュメンタリー

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 『ナビィの恋』『ホテル・ハイビスカス』など沖縄を舞台にした作品で知られる中江裕司が撮ったドキュメンタリーだ。ただし、舞台は沖縄ではなく福島とハワイ。ドキュメンタリーというのは、魅力的な人物を見つけて中心に据えれば、半分以上は成功したようなもの。本作の場合は、電気工事店を営む横山久勝さん。

 音楽と祭りが好きでギターや和太鼓を手作りしてしまう彼の悩みは、故郷・双葉町が帰還困難区域に指定されて帰れないこと。それ故、先祖伝来の双葉盆唄が忘れられてしまうことを憂えた彼が、福島からハワイに移民した人々によって盆踊りが継承されていることを知り、仲間と共にマウイ島を訪ねる。

 だから、“フクシマ”を扱ってはいるが、原発問題を考える社会派映画ではない。むしろ中江監督らしい人間賛歌で、土着の生命力や音楽性といった作家性は今回も健在である。その上で彼は、映画の持つ表現力を最大限に駆使して(時にはアニメーションまで使って)、人間の営みが長い時間をかけて育む“伝統”や“故郷”といったものを、映画の短い尺の中で見事に映像化してみせる。

 でも、だからこそ、終盤の“やぐらの競演”シーンは全くの蛇足。だって、そこまでの100分程度で悠久の時間の流れを既に描き切っているから。それでも、近年の日本のドキュメンタリー映画の中でも屈指の傑作であることは間違いない。★★★★★(外山真也)

監督:中江裕司

出演:福島県双葉町の皆さん、マウイ太鼓

2月15日(金)から全国順次公開

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