フランスの地で、早速フル稼働中だ。
今冬に鹿島アントラーズからトゥールーズへ移籍した昌子源は、21節のニーム戦で新天地デビューを飾った。
この試合で完封勝利に貢献すると、以降の公式戦5試合で連続フル出場中。最終ラインに欠かせない存在へとなりつつある。
適応するまで時間がある夏とは違い、冬の移籍はすぐさまチームに馴染むことが求められる。特に連係がモノを言うディフェンダーにとって、冬の移籍は非常に難しいはずだ。
しかしそんな中でも、昌子はすぐに起用され、3バックと4バックを併用するチームにおいてポジションを確保している。
なぜ、昌子は信頼を掴めたのか。トゥールーズの基本メンバーや戦術に触れつつ、“昌子に吹く追い風”に迫っていきたい。
■3-4-2-1がメインも、複数システムを併用
チームを率いるアラン・カサノバ監督は、「3-4-2-1」「3-4-1-2」「アンカーを置いた4-3-3」「4-2-3-1」を併用しているが、メインのシステムは「3-4-2-1」だ。
守護神はバティスト・レネで、3バックは右から昌子、ベテランのヤニック・カユザック、ウイングバックとサイドバックもこなす18歳のバフォデ・ディアキテ。
ダブルボランチは、イブラヒム・サンガレとカリドゥ・シディベのコンビ。ウイングバックは右が世代別のフランス代表経験を持つスティーブン・モレイラ、左はギニア代表のイシアガ・シラが担う。
シャドーは右がトーゴ代表のマチュー・ドセヴィで、左にキャプテンのマックス・グラデルが入る。
1トップはかつてアーセナルでプレーしたヤヤ・サノゴと10番を背負うアーロン・レヤ・イセカがポジション争いを展開中だ。
■指揮官が重視する“個の力”
公式戦6試合連続でフル出場中の昌子だが、採用される布陣が複数あることも影響し、様々な位置で起用されている。
一番多いのが、3バックの右ストッパー(2試合)で、リベロと左ストッパーが1試合ずつ。4バックのCBは左右ともに1試合ずつ経験している。昌子からすれば、早く立ち位置が固定された方がやりやすいだろうが、今は指揮官が“最適解”を見出している最中だと言えるだろう。
そのカサノバ監督はシステムを固定せず、チーム状況と戦況に応じてやり繰りするタイプなのだが、明確な戦術を植え付けるというよりも、個の力を重視し、攻守において1対1で打開することを求めている。
よって攻撃陣はドリブルで仕掛けて即興的に攻める形が多く、守備陣は侵入してきたアタッカーとのマッチアップでいかに勝てるかが生命線となっている。
そうなると、選手の好不調がチーム全体のパフォーマンスに直結することになる。試合によって内容にムラがあり、なかなか波に乗れないのには、このような背景があるのだ。
しかし、シーズン途中の加入となった昌子にとって、個を重視する指揮官であったことはむしろ幸いだったと言えるかもしれない。
■周囲の信頼と環境を“追い風”に――
例えば、緻密な守備戦術を持つ監督であれば、まずはその理論を理解し、なおかつ周囲との連係も深めていかなければならない。異なる言語の中で、理論をすぐに理解することは容易ではない。準備の時間が少ない冬の移籍なら尚更だ。
一方、細かな戦術よりも1対1の強さに重きを置く監督なら、練習でもアピールしやすいし、試合出場の可能性も高まる。
昌子の1対1の強さが世界レベルであるというのは、ロシア・ワールドカップでも証明済み。元より指揮官の期待値は高かったはずで、自身の戦術に合致すると考えていただろう。
そして、デビュー戦で完封勝利を収めることができたのも、大きな“追い風”だった。初戦の結果次第で周囲の見る目は変わるし、信頼も段違いとなるからだ。
チームの失点減につながるプレーを継続的に披露できれば、名実ともにディフェンスリーダーとして君臨できるだろう。
新天地で奮闘を続ける背番号3にとって、ネイマール、キリアン・エムバペ、エディンソン・カバーニ(パリ・サンジェルマン)、ラダメル・ファルカオ(モナコ)、マリオ・バロテッリ(マルセイユ)といった世界有数のストライカーと対峙できる環境は、大変魅力的であり、技術を磨く上でも“追い風”に違いない。
彼らとのマッチアップを通してレベルアップし、日本代表のレギュラーを奪還する――。“追い風”が吹く昌子の逆襲を心待ちにしたい。
2019/2/11 written by ロッシ