北朝鮮で超人気の就職先。理由は「銃殺されないから」

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かつて、北朝鮮で人気のある就職先と言えば、人民保安省(警察庁)、国歌保衛省(秘密警察)などの司法機関、朝鮮労働党などの権力機関だった。一般庶民が飢えに苦しんでいても、特別配給を得られ、権限を利用してワイロを搾り取るなど、オイシい思いができたからだ。しかし、ここ数年で事情が変わった。

今、いちばん人気の就職先は合弁企業であると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

咸鏡北道の情報筋によると、多くの人が合弁企業への就職、転職を希望しており、待機者リストに登録しても、就職できるのはその2〜3年後になるという。

合弁企業と言ってもどこでもいいというわけではない。転職を希望する人々は、企業の業務内容、投資、今後の展望などを把握した上で、第一志望の企業に就職するためにワイロを渡したりありとあらゆる手段を動員する。

別の情報筋によると、国営のアパレル工場や食品加工工場に務める労働者も、安定性が保証され賃金の高い合弁企業に転職しようとするという。また、貿易会社直営の工場も人気で、数百人待ちだとのことだ。

「ワイロを出せば不可能なものはないので、転職が流行している。一部の合弁企業は、従業員にコメ100キロと月給300元(約4900円)を支給している。保安員(警察官)ですら辞職して合弁企業に入ろうとする」(情報筋)

人々が合弁企業に殺到するのは、一般的な労働者の月給4000北朝鮮ウォン(約52円)をはるかに越える月給だけではない。

当局は、国家的建設事業の建設や政治集会などの名目で、一般労働者を動員する。国営企業の工場は電気や原材料が不足して稼働していないため、労働力を駆り出すには格好の場となっている。

一方で合弁企業勤務ならそれらの動員に行くことはあまりない。会社が当局にワイロを掴ませ、従業員の動員を免除させるからだ。国営企業と異なり合弁企業の工場はよほどのことがない限りは稼働を続けているため、従業員に頻繁に留守にされると困るのだ。

これが従業員の満足度を非常に高めているという。建設現場への動員は長期間に渡り、命を落とすことすらあるので、誰も行きたがらないのだ。

かつては花形の職場だった司法機関など国の機関の人気はジリ貧だ。頻繁な検閲(監査)、無差別な粛清、更迭で、いつ命を落とすかわからないからだ。「今ほど、人々が自分の職業について深刻に考えたことはなかった」(情報筋)ほどだという。

北朝鮮は個人の生活を充実させることよりも、国や労働党、そして最高指導者のために何ができるかを求められるお国柄だ。就職は、本人の希望より当局の都合が優先され、勝手に割り振られるものだった。嫌な職場であってもしがみつくしかなかった。国営企業や国の機関に所属せずにいれば「無職」として処罰の対象となり、食糧や住宅配給も受け取れなかったからだ。

しかし、北朝鮮の人々は何もしてくれない国や最高指導者に忠誠を尽くすのではなく、自分がいかに豊かになるかを重要視するようになった。とりわけ、チャンマダン(市場)世代と呼ばれる若者たちにそのような傾向が強い。

様々な形の動員で国を維持してきた北朝鮮だが、なし崩し的に進む動員力の低下に国のシステムの再構築は避けられないだろう。