スタバの元会長が大統領選に出馬へ アメリカ大統領選挙における独立候補とは何か

2019年に入ってアメリカ大統領選をめぐる報道は盛り上がっています。特に、民主党では、カマラ・ハリス氏が脚光を浴びています。その中で、米コーヒーチェーン大手のスターバックスのハワード・シュルツ前会長が2020年の米大統領選に出馬することを検討していることが報道されました。しかし、彼は民主党でも共和党でもなく独立候補として出馬することを目指していると伝えられています。

それでは独立候補とは何者なのでしょうか。そこからアメリカの政治制度を考えていきたいと思います。

二大政党優位の大統領選

 アメリカ政治の大きな特徴は民主党と共和党という二大政党による熾烈な競争にあります。1980年以降、民主党と共和党は、大統領選勝利、連邦上院過半数、連邦下院過半数という3つの勝利を目指して激しい競争を展開してきました。一方で、二大政党以外の勢力は基本的に十分に浸透することができませんでした。

 無論、人々の考えは必ずしも二大政党という枠に収まるわけではありません。実際には様々な政治家がいましたが、彼らは二大政党のいずれかからの出馬を目指してきました。そのことをよく示すのが、2016年大統領選です。トランプ候補は、保護貿易推進や人種差別的なレトリックなど、共和党エリートとは相いれない部分が大きいにもかかわらず、共和党から出馬し勝利しました。同様に、民主党から出馬したサンダース氏も、議員としては無所属であり国民皆保険を推進するなど異色の政治家でした。

第三候補の歴史

 それでは、過去にはどのような独立候補がいたのでしょうか。もっとも有名な例は、1992年大統領選挙におけるロス・ペロー氏の出馬です。当時は、共和党のジョージ・H・W・ブッシュ政権(2001年から2009年に大統領を務めたジョージ・W・ブッシュの父)に対して、民主党からはビル・クリントン氏(2016年大統領選挙でトランプ氏と戦ったヒラリー・クリントン氏の夫)が挑むという構図でした。しかし、当時は、二大政党への不信感の高まりから、知名度もあり当時問題となっていた財政赤字の削減や北米自由貿易協定批准への反対を主張して一躍脚光を集めました。結果、全体の18.9%もの票を集めたのです。

しかし、多くの場合独立候補はほとんど泡沫候補として終わってしまいます。理由はいくつか考えられますが、大統領選という典型的な勝者総取りのゲームでは二大政党による一対一という構図が分かりやすいことや、報道が予備選も含む二大政党に集中することが挙げられるでしょう。

分極化という問題

 このように、基本的には独立候補には勝算がありません。それではなぜ出馬するのでしょうか。それには、民主党、共和党の政策の違いが大きくなっているという問題があります。特に1980年以降、民主党と共和党との間では意見の隔たりが大きくなり、妥協が困難になるという問題が取りざたされています。これは分極化と呼ばれるもので、社会保障の在り方や同姓婚、避妊といった問題をめぐって、民主党と共和党は激しく対立してきました。

その中でシュルツ氏は昨年、昨年6月の会見において、政権運営の在り方や法人税減税に触れてトランプ大統領を非難しています。一方で、医療保健制度の拡大など民主党政治家の政策提案については余りにも左派主義的であると批判していました。

独立候補登場で得するのは誰かという問題

 大統領選の勝者は基本的に二大政党の候補者に限られるために、独立候補は常に「誰の票を食うか」という問題とともに捉えられてきました。たとえば、1992年選挙では「ペロー氏が本来ブッシュ氏支持に入っていた票を奪ってクリントン氏の勝利に貢献したのではないか」という「ペロー神話」が語り継がれてきました。(この説は近年では選挙専門家からあまり支持されていないようです。)

 2020年選挙においても同様で、シュルツ氏が出馬した場合、彼が勝てないことを前提としたうえで、民主党候補と共和党候補(おそらくはトランプ氏)とのどちらから票を奪うかという問題が議論されています。今のところ、シュルツ氏は民主党候補から票を奪うことが懸念されています。というのも、シュルツ氏は社会保障や増税という点では現在の民主党に批判的ながらも同姓婚などの問題においてはリベラルだからです。

 独立候補の重要性は、近年二大政党候補による接戦が増えていることからもより大きな問題になっています。シュルツ氏の動向は今後も注目を集め続けることでしょう。

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