いよいよ今秋、日本で初めて開催されるラグビーのワールドカップ(W杯)で、日本代表入りを目指す強豪南アフリカ出身の選手がいる。日本でさらなる成長も遂げ、大舞台での活躍が期待される。
30歳のロック、ビンピー・ファンデルバルト(NTTドコモ)は、昨年11月のテストマッチ全3試合で先発するなど、既に日本代表の一員として活躍。長髪で「王子」と呼ぶファンもいるが、グラウンドでは泥臭く母国仕込みのフィジカルの強さを発揮する。
本人は「ディフェンスとボールキャリー(運び)が好き」と話す。代表の中では「ビンちゃん」と呼ばれているそうだ。
「どの学校でもナンバーワンのスポーツがラグビー」の母国で、7歳のときから競技を始めた。
当初憧れていたのは南アが2007年W杯で優勝した時のメンバーで、日本のサントリーにも所属したスカルク・バーガー。13年にNTTドコモからのオファーを受け「いい経験になると思った」と来日した。
1季プレーした後、また戻ってきてほしいという母国のチームの誘いもあったそうだが、「日本でのプレーが楽しくて、日本でプレーすると決めた」と振り返る。
日本ラグビーのスピード感、技術の高さ。自らも「スキルのレベルは上がった」と話す。豊富な練習量にも影響を受けたという。
身長は188センチで「たぶんインターナショナルで最も背が低いロックの一人」と笑う。
もともとはフランカーだったが、NTTドコモでロックが足りなくなった関係で、新たなポジションになった。
28歳のロック、グラント・ハッティングはW杯本番までに代表資格を得るとして、ファンデルバルトらとともに3次候補に名を連ねている。
昨季クボタから神戸製鋼に加入し、15季ぶりのトップリーグ復活優勝に貢献した。「試合が始まる前から、勝つ準備ができている」と、チームメートの世界的司令塔ダン・カーターにも刺激を受けた。
201センチという長身で、空中戦での強さはもちろん、神戸製鋼ではフランカーを主に務めた走力が武器だ。
「バックスと一緒にプレーするのも大好き」と、神戸製鋼では時に守備の薄い外側に位置し、長身を生かしてタックルを受けながらも球をつないで好機を演出した。試合中に仲間を鼓舞する姿も印象的だった。
ハッティングも当初日本に来た際は、1季だけで母国に戻ろうと考えていたそうだ。
だが「人が本当に優しい。食べ物もおいしい」と日本に惚れ込みプレーを続けている。
サッカーなどと違い、ラグビーでは外国出身の選手が代表でプレーすることが珍しくない。
15年のW杯イングランド大会でも多くの外国出身選手が大躍進を支えた。
大きな体をぶつけてスクラムで奮闘するプロップ、小柄ながら素早く球をさばいてチームを動かすSHと、さまざまな特性を持った選手が活躍できるのがラグビーの一番の魅力ではないかと思う。
ハッティングも「ラグビーはチームスポーツ。背がそこまでない選手でも、大きい選手でも、出る場所がある素晴らしいスポーツ」と語る。
体や能力が異なるだけでなく、さまざまなバックグラウンドを持つ15人が一心同体となって奮闘する姿が楽しみだ。
吉田 篤史(よしだ・あつし)プロフィル
2010年に共同通信入社。秋田、埼玉、福岡の支社局で事件取材などを担い、17年5月から大阪支社運動部でラグビーなどスポーツ取材を担当。埼玉県出身。