すべてのカップルに祝福を LGBT婚に寄り添う牧師

 同性だから結婚できないなんて  「性のかたち ありのままを生きる」(2)

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関かおり

共同通信

関かおり

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2013年入社。名古屋支社、静岡支局、浜松分室を経て47ニュース編集部に。将来の夢は忍者。

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トランスジェンダーの結婚式を執り行う牧師の中村さん

 忘れられない結婚式がある。

 数年前、ある若い男性が相談に来た。彼には男性のパートナーがいて、東京都内のアパートで7年ほど一緒に暮らしていた。しかしパートナーが病気になり、徐々に衰弱、入院した。病院に来たパートナーの親族は同性の恋人の存在に戸惑い、「出て行け」と男性を追い出した。

 男性はこっそり病室に忍び込み、パートナーと結婚の誓いを交わした。その直後、パートナーは亡くなった。最後まで面会は認められず、死に目にも会えなかった。

 「あんなこと、するべきじゃなかったのではないか。クリスチャンでもないのに、結婚式のまねごとをしてしまった」。男性は半年間、ずっと苦しんでいた。悩みを打ち明けられた牧師の中村吉基さん(51)は、「神はどんな人も受け入れる」「祝福してくださったはずだ」と諭したが、納得してもらえなかった。

 「じゃあ、結婚式をやりますか」

 中村さんはそう提案した。「せめて2人の約束を追認したかった」。4カ月ほど準備をして、都内の教会でひっそりと結婚式を挙げた。パートナーの遺影を抱いた男性が1人でバージンロードを歩き、リングを自らの手に2つはめて指輪交換をした。

 中村さんは、同性愛を禁じる考え方が主流のキリスト教の牧師でありながら、自身がゲイであることを公表。LGBTの信者を受け入れ、結婚式を執り行うなど、牧師の立場で当事者たちに寄り添っている。

 ▽「男のお嫁さん」

 中村さんが同性に惹かれ始めたのは中学生のときだった。当時、同性愛は「治る」ものとされていた。子どものころから近所の教会に通ってはいたものの、宗教と性的な指向との溝をそこまで深刻にとらえなかった。しかし大学生になってから、恋愛対象が男性であることに悩み始める。思い切ってゲイバーに行ってみようと決心したその日、自転車で崖から転げ落ちて大けがをした。「やっぱり、神様が怒っているんだ」。

中村さん

 1993年、セクシュアルマイノリティーが登場するテレビドラマ「同窓会」が流行した。中村さんは思いきってゲイであることを親しい友人に打ち明けた。受け入れてくれた。

 5歳年下の同性パートナーとネットを通じて出会ったのは2001年だった。その翌年、母親をがんで亡くした。カミングアウトできないままだった。

 でも、今振り返ると、母は気づいていたように思う。「友達」として紹介したパートナーは、母の看病をしてくれた。母は「吉基をよろしくね」とパートナーに言い残し、危篤になった。病院に駆けつけた親族の1人が、独身の中村さんを心配して「彼女、いるの?」と尋ねると、昏睡状態の母が言った。「吉基には、男のお嫁さんがいるのよ」。それが最後の言葉だった。

 パートナーとは08年1月に結婚式を挙げ、婚姻届の代わりに公正証書を交わした。一緒にいると心安らぎ、自分らしさを出せる相手だった。「別れる気がしなくて、挙式をしたいという思いがずっとあった」。当時はLGBTへの理解が一般に広まっておらず、挙式はごく親しい仲の人だけを招いてこっそりやるのが当たり前。中村さんの式も、招待客20人ほどのこぢんまりしたものだった。指輪は通販で注文したが「男の名前が2つで『変だな』と思われないかな」と不安だった。

 パートナーはゲイであることをカミングアウトしていないため、今は隣り合うマンションの部屋で暮らしている。

 ▽ゲイの牧師として

 中村さんが牧師の道を志したのは、30代で大病を患ったのがきっかけ。「元気になったら、牧師になろう」と神様と心の中で賭けをした。回復し、働きながら神学校に通い、04年に伝道師、06年に牧師となった。

 中村さんによると、今でも世界の大部分のキリスト教では同性愛を認めない聖書解釈が主流だ。一方で、最近では新しい解釈も生まれ、同性愛を受け入れる動きが広まりつつある。中村さんの属する教団には、他にもLGBT当事者であることを告白した牧師がいる。

 04年、中村さんはゲイバーなどが集中することで知られる東京都新宿区の新宿2丁目付近に教会をつくった。ビルの一室で、セクシュアリティーを問わず信者を受け入れた。「LGBTはだいたい半分くらいだった」。同性愛を告白したせいで、元々通っていた教会を追われてきた信者もいた。その後、ホテルの会議室に場所を移して集会をしていたが、昨年、教会を閉め、今は「フリーの牧師」として活動している。

 式場やカップルから求められれば、LGBTの結婚式で牧師を務める。専属の牧師が信仰上の理由から同性カップルの挙式を拒否し、中村さんに依頼が来るケースもある。数か月かけて本人たちと面談してカウンセリングし、人となりを知ってから挙式当日に臨む。これまでに6組ほどのLGBTの式に立ち会った。

 同性婚が認められない日本で結婚式を挙げる意味を、中村さんは「男女のカップルと同じように自分も式を挙げたい、と思うのは何も悪いことじゃない」と語る。「キリスト教の世界では、たとえ籍を入れていなくても、『この2人はカップルだ』と牧師が宣言したら、それは正式にカップルです」。一方で、亡きパートナーと結婚式を挙げた男性の苦しみや、挙式を望むLGBTカップルの悩みに耳を傾ける中で、やはり「同性婚が法制化されるか、パートナーシップ条例がもっと広まってくれれば」との思いを強くしている。

 中村さん自身、以前、突発性難聴になって救急車を呼んだとき、困った体験をした。救急隊員がパートナーのことを「友達」としてしか扱ってくれず、病院でも処置室に入れてもらえなかったのだ。力を振り絞って自分の口で状況やプロフィルを説明しなければならず「この先も、意識不明にはなれない」と強い不安を抱いた。同性カップルはいくら長く連れ添っても、婚姻と同じ権利が保障されない。新居、相続、葬儀…。結婚式を無事に終えても、たくさんの壁が待ち受けている。

長崎ウエスレアン大学での講演=2017年12月

 中村さんは現在、講演会を中心に活動している。昨年は、「宗教とLGBTネットワーク」という団体を結成した。LGBT当事者と教会双方のサポートを目的としている。

 「同性同士だから結婚できないなんて、人権的におかしい。多様性を受け入れる社会を作ることに、少しでも貢献できれば」。そんな思いで、結婚式を迎えるLGBTカップルに向き合う。「祝福がありますように」 (共同通信=関かおり)

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https://www.47news.jp/47reporters/u30com/3297504.html