ロシア・ドーピング、また「玉虫色」決着 IPC、東京パラへ苦渋の決断

平昌パラリンピックの開会式で入場行進する、ロシアから個人資格の「中立のパラリンピック選手」として参加した選手たち(手前)=2018年3月9日(共同)

 国際パラリンピック委員会(IPC)がスポーツ史に最大級の汚点を残したロシアの国ぐるみのドーピング問題でこれまでの強硬路線から一転、現実路線へ大きくかじを切った。8日、ドイツのボンでアンドルー・パーソンズ会長(ブラジル)が記者会見を開き、2016年8月から資格停止となっていたロシア・パラリンピック委員会(RPC)の処分を条件付きで3月15日までに解除すると発表した。ロシアは国主導の不正を認めないまま、国旗や国歌を使用できる選手団として20年東京パラリンピックへの参加に道が開けた。(共同通信=田村崇仁)

 ▽国の不正認めず

 「タイムリミットが迫っている」。昨年12月の来日時、パーソンズ会長は理想と現実の間で悩める心境を打ち明けた。

 RPCの処分解除の条件で最大のポイントは、世界反ドーピング機関(WADA)調査チームのリチャード・マクラーレン氏(カナダ)が組織ぐるみのドーピング違反を認定した「マクラーレン報告書」を、ロシアが公式に認めるかどうかだった。だがロシアがプーチン大統領主導で世界のスポーツ界を欺き、組織不正を認めて謝罪することなど現実的ではない。

 今回、IPCの作業部会は「ロシアがマクラーレン報告書をまだ認めていない」として全会一致で処分解除の条件を満たさないと理事会に提案した。IPCの声明によると、パーソンズ会長は苦渋の選択でそれでも門戸を開く道を選んだ。「ロシアは永久にマクラーレン報告書を認めないだろう。ありそうもない反応を待って従来の条件に固執するべきか、厳しい条件を付けて別の方法を見いだすのか。理事会は前進することが重要だと、後者を選択した」。ロシアの選手を全面的に閉め出すのではなく、処分解除の条件としていた70項目のうち、69項目を満たした改革を評価。投票権を持つ理事会メンバー13人のうち、6人をパラアスリートが占める中で多数決での決定だった。

2019年2月8日にドイツ・ボンで記者会見する国際パラリンピック委員会のアンドルー・パーソンズ会長(ゲッティ=共同)

 ▽新条件で打開案

 IPCが東京パラ参加へロシアに設定した新たな条件は、22年末まで他国と異なる特別なドーピング検査を受けること、6カ月ごとの報告書提出、ロシア国内で政府など外圧を受けずに検査を実施できる態勢、検査に関わるコストの負担など6項目に上る。これまでの膠着状態を打開する案を出した形だ。

 IPCは国際オリンピック委員会(IOC)と共同歩調を取らず、16年リオデジャネイロ大会ではロシア選手団を全面除外とする英断を下した。18年平昌冬季大会では潔白の証明など条件を満たした選手のみ国旗や国歌を使えない「中立のパラリンピック選手(NPA)」として個人資格で出場を容認した。東京で選手団派遣が認められれば、14年ソチ冬季大会以来6年ぶりとなる。

 ▽名を捨て実を取る

 IOCはシュミット元スイス大統領を委員長にロシアのドーピング問題を検証した「シュミット報告書」を根拠とし、ロシア・オリンピック委員会に資格停止処分を科し、18年2月の平昌冬季五輪後に資格回復を認めた経緯がある。この「シュミット報告書」は「マクラーレン報告書」の調査も踏まえてロシアの組織的な不正は認めたが、国主導だったかは証拠不十分で証明されなかったと明記された内容だ。

 WADAも昨年9月、条件付きでロシアの反ドーピング機関(RUSADA)の処分解除を決定。モスクワ検査所の検体やデータ解析も終わらない中で「玉虫色」の決着に各国から批判が起こった。主要競技団体では国際陸連がいまだロシアに対する資格停止処分を科しているが、IPCとして大国ロシアに圧力をかけ続けるのは限界だったということか。

 ロシアはドーピング違反が表面化する前の12年ロンドン大会で、1位中国の95個に次ぐ36個の金メダルを獲得した。カナダ出身で競泳女子の名選手だったIPCアスリート委員会のゴーテル・チェアマンは「マクラーレン報告書の内容を認めて受け入れる当初の方針を変更したことに反対するパラアスリートもいるかもしれない」と現役選手から批判が出る可能性も指摘した。だが「名を捨てて実を取る戦略だ」とIPC関係者の1人は語る。

 パーソンズ会長は「新たな条件でわれわれは最低3年間、ロシアの反ドーピング活動を監視できる。もし条件を守れなければ迅速に対応して再び資格停止処分にすればいい。ロシアが参加することでパラスポーツの高潔性や信頼性が危機にさらされることはない。クリーンな選手を必ず守れると確信している」と訴えた。

ロシアのドーピング問題に関する最終報告書について記者会見するWADAのリチャード・マクラーレン氏=2016年12月、ロンドン(共同)

 ロシアのドーピング問題 世界反ドーピング機関(WADA)から調査チームの責任者に任命されたマクラーレン氏が、2016年に公表した報告書でロシアの国家ぐるみのドーピングを指摘。検体のすり替えや検査データの改ざんを立証し、11年から15年にかけて千人を超すロシア選手が組織的な不正や隠蔽に関与または恩恵を受けたとした。16年リオデジャネイロ大会はロシアの参加を巡って五輪とパラリンピックで対照的な対応措置となり混乱に陥った。18年平昌冬季大会では潔白を証明した選手など条件付きの個人資格で五輪、パラリンピックともに参加が容認された。

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