美しすぎる営業職・立花サキの日常
日本の労働者総数は、およそ6600万人。そのうち営業職は約880万人程度と言われている。日本経済を支えるさまざまな企業において、営業職は欠かせないものだが、ここのところその就労人数は減少傾向にあるといわれる。
インターネットの普及が進み、流通の変化やコンプライアンス問題、働き方改革などにより、社会構造の変化が起きたことで、営業職の必要性が見直されただけでなく、その労働の過酷さがクローズアップされたことも要因となっている。
そんな「やる人が減ってきた」営業職だが、結果を出し続けるために、目的意識とチャレンジ精神を持ち、度胸があり、心身も丈夫な、“営業の鏡”のような人材がここいる。キラキラと輝く、会社からすれば大変貴重な存在といえる人材。それがこの物語の主人公、“美しすぎる営業職”こと立花サキである。
(この物語はフィクションです)
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「はぁ〜、今日もダメだった……」
路肩に止めたプロボックスから降りつつ、私はひとりごちる。株式会社・大得湾商事に入社して早8年、ずっと営業畑を歩んできたが、今だに契約が取れなかった時は落ち込むものだ。
入社したての頃は、「美しすぎる営業」なんて言われたりしてチヤホヤされ、いかにも下心ありそうなオジさんたちから契約を勝ち取ってきた。とはいえ、一度でも色仕掛けで獲得したことはなく、あくまでも私の信条でもある「熱意と行動力」が功を奏したのだと、自負しているつもりだ。
「けど、いつからだろう。契約が取りづらくなったのは……」
考えてみると、私は8年間ずっと同じようなやり方をしてきた。果たしてこのままでいいのだろうか。いや、きっとよくはないのだろう。私だって変わらなきゃいけない。なにせ、この営業車だって時代ともに変わっているのだ。
いつも押してばかりじゃなく、逆のベクトル
ウチの会社では、数年に一度のペースで営業車両を入れ替えている。営業車というものは、1年で数万キロ以上走破するので、各パーツがあっという間に消耗してしまう。しかし納車された新しい車両に乗ってみるといつも驚かされる。それは、所謂マイナーチェンジと言われるやつで、必ずどこかの使い勝手が良くなり、文字通り“改良”されているのだ。
今乗っているプロボックスは昨年末に入れ替えた車両だが、これまでのガソリン車からハイブリッドカーになっていた。実際に運転してみると、加速がいいし、走行中の音も静かだ。高級車に乗っている気さえしてくる。そしてなんといっても燃費がいい。経理担当の槙原さんは、毎回精算のたびにびっくりして目を丸くしていた。
そういえば、同期でクルマ好きの三島君もドヤ顔で言ってたっけ。
「立花さん、ハイブリッドカーって知ってる?」
「クルマの種類でしょ?」
「そう、元祖ハイブリッドカーのプリウスが登場してから、クルマ界のトレンドは“燃費”になったんだよ」
「うーん、三島君。よくわからないけど、プリウスなら聞いたことあるよ」
「だからさー、クルマも時代とともに変化してるんだ。90年代までのハイパワー競争から、“低燃費”がいいクルマの条件になったんだ。ベクトルがまったく逆だろ。俺たち営業職だってそうさ、いつか別のやり方を考えなきゃいけない時期が来る」
「営業のことはわかるけど、クルマに例えるからわからないんだよ(笑)」
あの時の会話の意味が、この最新のプロボックスに乗ってすこしだけ理解できた。なぜならこのハイブリッドカーは、今まで乗ってきたクルマと違って、なんだか優しい。運転している自分に優しいのはもちろん、周囲の環境にとっても優しい気がする。こんな感覚のクルマは初めてだ。
そっか、いつも押してばかりじゃなくて、逆のベクトル。つまり、時にはひいた営業をしてみよう。なんだよ三島ー、たまには役に立つじゃん。
プロボックスという名のユーティリティプレイヤー
営業職は「セールスマン/セールスウーマン」とも呼ばれる。上司からは毎月のノルマ達成が求められ、会社の利益に貢献できなければ、セクハラまがいの嫌味を浴びせられる地獄が待っている。継続的に成果を出せず、消耗してしまい、会社を辞めていった人もたくさん見てきた。
だからこそ、まずは落ち込んだ心を立て直すことが大切だ。その点、私はマインドコントロールが昔から得意なのだ。男と別れた時も、必ず私の方が先に立ち直り、たいていの男がよりを戻したくて泣きついてきたものだ。
そういえばこの新しいプロボックス、シートの小脇に荷物を置く場所が付いている。ここからスマホを出して、お気に入りの音楽でもかけよう。USBの差し込み口も新設されたみたいだ。こんな部分も優しいなぁと思う。心が疲れている営業にとって、営業車が癒してくれるならこれほどありがたいことはない。大好きな曲を聴きながらお気に入りのファッションサイトをスマホでチェックしていたら、なんだか気分が晴れてきた。
時間がないのでランチも車内で済ませてしまう。
プロボックスにはテーブルが付いているから食事がしやすい。お行儀は悪いけど、食事の途中でPCをひらいて仕事のメールをチェックすることもできる。マルチホルダーはサイズが大きくなったようで、スマホやメモ帳も置けるようになっていた。空腹が紛れたら、なんだか眠くなってきた。きっとシートヒーターがついたせいだ。なんて、プロボックスのせいにしてすこしだけ横になる(笑)。
覚醒したらメイクを直して、一杯のコーヒーを飲む。その時、スマホの着信音が車内に鳴り響いた。
「はい、立花です。お世話になっております……え、本当ですか!? ありがとうございます! はい、すぐに向かわせていただきます」
それは顧客からの連絡だった。ダメだと思っていた契約が、もしかしたら取れるかもしれない。はやる気持ちを抑えつつ、先方へ向かうことにする。運転中、プロボックスもなんだか急ぎ足で走ってくれている気がする。
私の心を支えてくれる相棒
犬山さんは数多くの先輩のなかでも、最も信頼出来る人だった。そして今、改めて、犬山さんの言葉が思い出される。
「いいか立花、営業というのは、ただノルマをこなせばいいってもんじゃない。顧客の満足度を高めることが大切なんだ」
「満足度……ですか」
「そうだ、まず相手の気持ちを考えること。相手先との良好な関係を築けなければ、その先はない」
短期的には今月のノルマを考えていればいいが、中長期的に考えれば、顧客の満足度を高めていかなければいけない。気がつくと私は、そのようなことを考えながら運転していた。
一般的に、「営業なんて誰でもできる」と思われがちだ。たしかに、営業職に特別な資格や難しい技術はいらない。だから別の職種の人たちからは、「営業なんて誰でも同じ」と思われている。
そんな人たちは、一度このプロボックスに乗ってみて欲しい。とにかく使う人のことが考えられているのだ。乗る人、働く人の心を考え、その満足度を極限まで高めるべく生み出されたに違いない。「商用車なんてどれも同じ」そんなことはないと私は思う。営業職にも、商用車にも、皆それぞれ個性があるのだ。
営業車というものは、本来は仕事の道具だけど、このプロボックスは私の心を支えてくれる相棒でもある。いや、かっこよく言うなら“戦友”かな。顧客の元へと向かうプロボックスのダッシュボードは、西日を浴び、私の心の中を表すようにキラキラと光り輝いていた。
[Text:安藤 修也/Photo:小林 岳夫/Model:立花 サキ]
立花 サキ(Saki Tachibana)
1988年11月10日生まれ(30歳) 血液型:A型
出身地:宮城県
日本レースクイーン大賞2011 グランプリ受賞
GOLF TODAYバーディーズ
宝石専門ch GSTVモデル
外車王イメージガール 2017
2010、2011、2012年 SUPER GT「GOOD SMILE RACING レーシングミクサポーターズ」
2011、2012年 アップガレージ ドリフトエンジェルス