名車ランチア ストラトスのレプリカが日本国内で販売開始
昨年のオートモビルカウンシルにクラシックレンジローバーを出展したUK CLASSIC FACTRY(UKクラシックファクトリー)は、個性的なレプリカの発掘にも熱心だ。このほど墨田区墨堤通り沿いにギャラリースタイルのガレージがオープン。このたび日本に上陸したばかりの、ランチア ストラトスの英国製レプリカ「リスターベル the STR」のお披露目を兼ねた発表会が開かれた。
発表会では、実際に英国のファクトリーを訪問し製造現場を視察してきた自動車ライターの武田 公美さんと、カーライフエッセイストの吉田 由美さんによるトークセッションも行われた。
「軽井沢の別荘にクラシックレンジローバーを」という勝見社長の夢
実はUKクラシックファクトリーは、もともと自動車を専門に扱ってきた会社ではない。人材派遣やコンサルタント業務を展開してきた有限会社ジェイブランディングが運営の母体だ。
そもそも自動車を扱うようになったきっかけには、代表の勝見氏の想いと憧れがあるのだという。
業務上、様々な分野の人との交流の中で、一つの理想的なライフスタイルが思い描かれた。それは「軽井沢の山荘にクラシックレンジローバーを並べたら素敵だろう」というもの。ずっと自動車とだけ過ごしてきた人ではなく、様々な環境を経て、クルマのある風景に思い至ったということ自体、素敵なことではないだろうか。
ちょうど近年、ネオクラシックを含む旧車がにわかなブーム。レンジローバーも、特に初代はこうした分野からも再評価されており、注目のモデルになりつつある。英国で丁寧に仕上げられたモデルを日本に輸入し、昨年のオートモビルカウンシルでもその雄姿は来場者の目を楽しませたので、記憶にある方もおいでのことだろう。
コピーでも二番煎じでもないロマンがこのレプリカにはある
そしてそんなオリジナルのレンジローバーを何台も輸入する一方で、ACコブラのレプリカであるAK427に続き、今回のthe STRの輸入開始と、レプリカについても興味深いモデルの発掘をしているUKクラシックファクトリー。単なる「誰も日本に入れていないクルマ」というだけのチョイスではないものをラインナップから感じ取ることができるのだ。
レプリカというとどんな印象を持たれるだろうか。偽物? オリジナルのマネ? どちらかと言うとまだまだネガティブなイメージを持つ人も少なくないかもしれない。
しかし、キットカー(ばらばらのパーツ:キット状態で売られるクルマ)の文化が盛んなイギリスで、それを組み立てる趣味や、そのための貸しガレージもあるという現地では、クルマ好きならつい「お!」っと足が止まるような名車を、現代の技術を盛り込んで形にしたモデルが数多く存在する。
あのまま進化していたらこんなクルマになっていたのかも。そんな「クルマ好きならつい思い描いてしまう妄想・ロマン」が、こんなレプリカモデルだと言えるのかもしれない。
UKクラシックファクトリーが導入したコブラとストラトスのレプリカも、多くはキットとして販売されるのだという。しかし、日本ではキットとして輸入し、自力で組み立てたクルマを登録することができないため、メーカーが手塩にかけて組み立てたコンプリートカーが輸入されることになる。
自動車文化の成熟したイギリスでは、レプリカにも鷹揚。というより、むしろ一つのジャンルになっているということができるかもしれない。
カントリーロードを爆走しても負けないボディは本家ストラトス以上?
視察した際の写真と共に、ファクトリーや、そこで働いている人のこと、さらに完成車についてのインプレッションなどを披露した武田 公美さん。その話の中であったのが、ファクトリーの周りのカントリーロードをかなりの速いペースで走った時の感想だ。とにかくボディがしっかりしているというのが印象的だったと話す。
車両は鋼管フレームにボディを載せるというスタイルで作られており、オリジナルから踏襲した驚くほど短いホイールベースに、堂々たる幅のワイドトレッドをもつ。この個性的なディメンジョンを最大限に楽しめるのがthe STRの特徴だ。
エンジンはアルファロメオ製のV6を搭載。日本に持ち込まれたデモカーには3リッターのエンジンが搭載されていたが、他に2.5リッターや3.2リッターのエンジンも選択可能という。
車体の真ん中にあるエンジンと、お世辞にも広いとは言えないキャビンが、マルチェロ・ガンディー二がデザインディレクターを務めていた時のベルトーネが手掛けたフォルムに包まれている。
これだけでお腹いっぱい。そんなストラトスの世界を、まさに現代によみがえらせた一台だ。オリジナルとの構造的な違いは、大型化されたトランクであろうか。
すでにバックオーダーを抱えており、納車まで2年待ちだというこのクルマ。為替変動などの影響があり、一意にプライスタグを掲示するのは難しいとしながらも、日本国内で1200万円ほどで納められれば、と担当者は話す。
塗装の質感、独特の金属ボディをFRPで再現したAK427
この日の話題の中心ではなかったものの、AK427に関しても武田さんの解説が披露された。
端的に言って、製造元のAKスポーツカーズがFRP職人であることが、大きくその魅力を高めたという。
もちろんオリジナルのボディは金属製。とても小さなボディに大きなエンジンを搭載しているので、パワーは全く申し分ない。それをよりシャープに蘇えらせたのは、オリジナルの時代にはなかったFRPによるボディ製造技術があってこそと言える。
オリジナル以上に軽量。しかし見栄えを考慮して、そのボディの仕上げには丁寧な磨きと高度な塗装技術が取り入れられ、それがこのクルマに独特の魅力を与えている。
そして外側は誰が見てもACコブラをイメージするだろうが、内装に関してはTVRか何か、バックヤードビルダーのスポーツカーでも見ているかのような独特の魅力を持っている。コブラのレプリカというより、コブラをオマージュしたニューモデル、そんな雰囲気さえある一台なのだ。
エンジンはシボレー コルベットにも搭載される6.2リッターOHVエンジン。21世紀のこの時代に、アクセルを踏み込むと、何か熱いものがこみあげてくる。あんなにほろりとさせるエンジン、そうそうあるものではない。なるほどこのクルマにはぴったりだ。
コブラに積むのならばフォード製エンジンだろ! という意見ももちろんあるだろう。しかし、チューニングの自由度をはじめ、様々なクルマ作りをしていく上で重要な要素をより多く解決しているのが、GM製のエンジンなのだ。
レプリカに寛容であること同様に、あまり原理主義になってもいけないのだろう。このクルマ自体そんな雰囲気に満ちていた。
「何からも束縛されない自由」それがレプリカの魅力
UKクラシックファクトリーは代表の勝見氏の思い描いた憧れでスタートした会社。
そんな会社が選んだクルマ、特にレプリカモデルは、原典原理主義的な自動車趣味へのアンチテーゼ。もっと自由に、束縛されることなく、他にはない価値を持ったクルマという共通項があるのではないだろうか。
ビンテージカーには、最新のモデルにはない勝ちがある。しかし、その名車の本物にはとても手が出ない。そして現代の環境で楽しむには、機械的に古いという事実は消えないのだ。(もちろんビンテージカーの価値はその古さにもあるのだが)
あのレイアウト、あの軽さ、それを現代技術を使って楽しむ。これはこれで、なかなか面白いことなのではないだろうか。
The STRは、世界で最も歴史と権威のある自動車メディア「AUTOCAR」でもそのハンドリングを絶賛された。そもそも、英国にゆかりのないランチア ストラトスを素材にしていること自体も興味深い点である。もっともランチアは英国に限らず、クラシックカーの世界で動かしがたい評価があるということが関係しているかもしれないが。
AK427も英国製だが、コチラはオリジナルのACコブラ427がその始祖を英国車「ACエース ブリストル」にもつので、その点は理解に難くない。
そしてこうしてUKクラシックファクトリーが持ち込むようなコンプリートカーは、キットカーとは評価が変わってくるという。
レプリカであっても、作り手のこだわりが詰まった本物本流のコンプリートカーは、イギリスではひと際人気が高いのだという。それは値段が高い安い、台数が少ないかどうかではなく、それぞれどんなクルマであっても作り手の息遣いに触れようとする、イギリスのカーガイの心意気に支えられているのかもしれない。海を渡ってはるか遠くの島国までやってきた興味深いレプリカたちを見て、そんなことを思った次第だ。
[筆者:中込 健太郎 / 撮影:オートックワン編集部]