2018年「倒産企業の財務データ分析」調査

 2018年(1-12月)に倒産した企業のうち、最新期での減収は60.9%に達し、生存企業の47.1%を13.8ポイント上回った。加えて、深刻な人手不足で上昇した人件費が収益を圧迫し、倒産企業の売上高人件費率は前期比2.6ポイントアップした。この結果、当期利益黒字は生存企業の78.0%に対して倒産企業は47.7%にとどまり、収益格差が鮮明になった。また、倒産企業の61.9%が債務超過に陥っており、売上高低迷と収益悪化が加速し、倒産のトリガーになっていたことがわかった。
 国内景気は大企業、輸出企業が牽引する形で緩やかに拡大をたどっているが、その恩恵に浴せない中小企業の業績改善は鈍く、厳しい経営が続いた末に破たんに至る実態が浮き彫りになった。

  • ※本調査は、2018年の倒産企業のうち、東京商工リサーチの財務情報から3期連続で財務データのあった463社(個人企業を含む)と、生存企業34万7,424社の財務データを比較、検証した。最新決算期は2018年1月期~12月期まで。

2018年の倒産企業 6割が最新期に「減収」

 2018年に倒産した463社の最新期の売上高合計は、3,375億5,536万円(前期比6.4%減)だった。倒産した463社のうち、「増収」は181社(構成比39.0%)に対し、「減収」は282社(同60.9%)と6割を占め、売上不振から抜け出せない企業が倒産しやすいことを裏付けた。一方で、生存企業の34万7,424社のうち、「増収」は18万3,586社(同52.8%)と過半数を占めた。

倒産・生存企業財務データ分析「増減収率」

赤字企業率 倒産企業52.2%、生存企業22.0%

 赤字企業率(当期純損失の企業数の比率)は、倒産した463社のうち、242社(構成比52.2%)と半数を超えた。一方、生存企業は34万7,424社のうち、7万6,423社(同22.0%)にとどまり、倒産企業と生存企業には30.2ポイントの開きがあり、収益力の格差が浮かび上がった。
 倒産した企業の赤字企業率は、前々期40.3%→前期41.9%→最新期52.2%と急激な業績悪化を招いている。一方、生存企業の赤字企業率は前々期21.5%→前期21.9%→最新期22.0%と、対照的にほぼ横ばいで推移している。

倒産・生存企業財務データ分析「黒字・赤字」

倒産企業の売上高人件費率 破たん前に上昇

 倒産企業の人件費(給料手当、役員報酬)は、前々期128億2,578万円→前期124億5,933万円→最新期127億6,766万円とほぼ横ばいだったが、売上高人件費率(売上高に対する人件費の割合)は、前々期10.8%→前期12.7%→最新期15.3%と年々上昇していた。ぎりぎりに圧縮した人件費も限界に達した一方で、売上高が減少し、収益悪化から赤字に陥るプロセスがみえてくる。
 生存企業は、前々期14.7%→前期14.3%→最新期15.4%と、倒産企業とほぼ同じ水準だった。増収基調にあるため、賃金引き上げの実施も収益内で吸収できる範囲であることを示している。

倒産・生存企業財務データ分析「売上高人件費率」

倒産企業の有利子負債構成率 右肩上がりの67.4%

 借入依存度を示す「有利子負債構成率(総資産に対する長短借入金、社債などの割合)」は、倒産企業の最新期で67.4%だった。生存企業は29.5%で、その差は2.2倍に開いた。
 倒産企業は自己資金が脆弱で、運転資金等を借入金等に依存している。そこに経営改善に結びつかないリスケ(返済猶予)が、過剰な有利子負債を抱える状態を招いている可能性もある。
 倒産企業の有利子負債構成率は、前々期58.8%→前期60.1%→最新期67.4%と年々上昇、過大な有利子負債が経営の重しになったことがわかる。一方、生存企業は前々期29.1%→前期29.5%→最新期29.5%と、ほぼ横ばいで推移している。

倒産・生存企業財務データ分析「有利子負債構成率」

倒産企業の自己資本比率▲11.3%、債務超過企業が61.9%

 企業の基礎体力や安全性を示す自己資本比率(総資産に占める自己資本の割合)は、倒産企業の最新期が平均▲11.3%(▲はマイナス)だった。この比率が低いほど借入金等への依存度が高く、比率のマイナスは債務超過を示す。業種により標準値は異なるが、生存企業の最新期平均が39.3%だったことから、倒産企業の財務内容の脆弱さがひと際目立つ格好となった。
 最新期の自己資本比率が30%以上の企業は、生存企業が19万902社(構成比54.9%)と半数以上だったのに対し、倒産企業は33社(同7.1%)に過ぎず圧倒的な差がついた。一方、債務超過は生存企業の5万9,935社(同17.2%)に対し、倒産企業は287社(同61.9%)と6割を超えた。

倒産・生存企業財務データ分析「自己資本比率」

倒産企業の経常利益率 平均▲3.3%

 経常利益率(売上高に占める経常利益の割合)は、倒産企業の最新期は平均▲3.3%だった。生存企業は平均6.5%で、倒産企業の本業での収益力の低さが目立つ。
 経常利益率は、金融収支などを含めた総合的な収益性を反映する。倒産企業は販売(受注)単価の低さに加え、膨らんだ有利子負債の金利負担などが収益を圧迫していることを示している。

倒産・生存企業財務データ分析「経常利益率」

倒産企業の当座比率 42.4%に低下

 倒産企業の当座比率(企業の短期支払能力を判断する指標)は最新期で42.4%だった。生存企業は82.1%で、支払能力の差が2倍近く開いた。  当座比率は、短期間に支払い期限が到来する「流動負債」に対し、当座資産(現預金、短期間に現金化しやすい受取手形、売掛金など)をどれだけ保有しているかを示す。比率が高いほど短期的な支払能力があり、当座比率は100%以上が安全性の目安になっている。
 倒産企業の当座比率は、前々期73.7%→前期71.6%→最新期42.4%と急激に悪化、想定以上に急激な資金不足に陥ったことがわかる。

倒産・生存企業財務データ分析「当座比率」

 2018年に倒産した企業の3期連続財務データから、倒産企業の6割が売上減少に歯止めがかからず、収益悪化で過半数が債務超過に陥り、資金繰りに行き詰まった実情がみられた。
 2012年12月から始まった今回の景気拡大は、戦後最長を更新する可能性が高まっている。だが、その恩恵に浴せない中小企業は少なくない。業績が不安定な状態で、深刻な人手不足を補う人員確保がコストアップを招き、収益悪化につながるケースが少なくない。今後は、収益力を高める競争力の有無が事業継続できるかどうかの分岐点に浮上している。

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