田園都市・新デザイン(1)次世代の「郊外」、産学公民で

 高齢化、都心回帰と郊外離れ、コミュニティーの希薄化、子育て支援…。大都市近郊の郊外住宅地が抱える課題の解決を目指す次世代郊外まちづくり。既存の街の再生、発展へ向け、東急田園都市線沿線で、産学公民でつくる新しい郊外デザインの取り組みを報告する。

 「産公民をトライアングルにつなぐ基地という意味を込めた」

 47棟から成る大規模な集合住宅「たまプラーザ団地」(横浜市青葉区)。隣接する三角形の土地に「さんかくBASE」との愛称で呼ばれる「WISE Living Lab(ワイズ・リビング・ラボ)」を東急電鉄が開設したのは2017年5月。横浜市と同社が進める「次世代郊外まちづくり」の発信、活動拠点だ。

 「なぜ、地域と関わり続けることが大切なのか」。昨年12月4日、同ラボで開かれた「健康セミナー」には地域の高齢者ら約30人が参加。「定年を見据え現役のうちから地域の活動を知り、参加しておくことが大切」「多くの人が利用する駅や電車の中で地域情報を発信してほしい」。生きがいづくりや健康維持を巡りさまざまな提案が出されたワークショップでは、コミュニティーとのつながりが重要との認識で一致した。

■開発から50年

 同社が鉄道駅を核として開発した大都市近郊の住宅地「多摩田園都市」(開発総面積約5千ヘクタール)。その中心として、1966年に田園都市線たまプラーザ駅が開業。2年後、居住エリアの先駆けとなるたまプラーザ団地が誕生した。

 それから50年余り。次世代郊外まちづくりのモデル地区に位置付けられた美しが丘1、2、3丁目では、住民の高齢化が進み、地域でいきいきと暮らし続けるための健康寿命延伸も一つの重要な課題になっている。

 同ラボが開設以来、連続して健康セミナーを開催しているのも、「健康の知識を得るとともに、ウオーキングや体操など健康を通じて地域活動に参加するきっかけをつくる」(同社次世代郊外まちづくり課)のが目的だ。

■リビング・ラボ

 「リビング・ラボとは、地域に関わるさまざまな主体が生活や暮らしの中で求められるサービス、製品を自ら開発することを指す。このエリアで産学公民による共創型でまちづくりを進めるためのドライバーの役割を担う」。東日本大震災の被災地での地域再生や、次世代郊外まちづくりの基本理念の策定に携わってきた東京大学まちづくり研究室の小泉秀樹教授(コミュニティ再生論)は説明する。

 モデル地区ではさんかくBASEを拠点に、福祉、医療、新たな移動手段といった超高齢社会に対応するサービスや事業はもとより、子育てや就労機会の創出など街の将来を見据えたリビング・ラボが始動。大手通信会社も関心を示し、ICT(情報通信技術)を活用した地域の課題解決をテーマにした勉強会も重ねられている。

 小泉教授は「行政(政府セクター)、企業、住民が連携して取り組む地域再生の実例。研究者として意義を感じている」と述べ、産学公民連携によって次世代郊外をつくるプロジェクトに強い関心を示した。

「WISE Living Lab」で連続して開催されている健康セミナー=2018年12月、横浜市青葉区

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