「野球不毛の地」ラオスで野球普及活動に尽力 韓国高校野球界の名将が抱く夢

韓国プロ野球経験者で現ラオス代表監督のクォン・ヨンジン氏【写真:豊川遼】

ラオス代表監督を務めるクォン・ヨンジン氏に話を聞くと…

 野球に限らずスポーツが国に根付くためには指導者が一定期間、現地に駐在する必要がある。普及は一朝一夕ではいかないが、継続的な指導や支援によって形となる。

 世界的な野球普及活動は主にJICAの野球隊員が中心となって行われており、まさにゼロからルールや技術的なことを教えていく。後にこの活動がきっかけとなり代表監督やコーチになるケースもある。こうした普及活動は日本人だけが行っている訳ではなく、韓国人も尽力している。その1人であり、現在はラオスで代表監督を務めるクォン・ヨンジン氏に話を聞いた。

 クォン監督は韓国プロ野球経験者であり、投手としてロッテジャイアンツなど2球団でプレー。しかし、選手時代はプロ6年間で5試合に登板し0勝0敗、防御率4.50と不完全燃焼で現役生活を終えた。引退後は大邱高校の監督となり、パク・ソクミン内野手(NCダイノス)やク・ジャウク外野手(サムソンライオンズ)など多くの選手をプロに輩出した実績を持つ。約15年間の監督生活を終えた後は2016年3月から大韓野球協会(アマチュア野球組織)の派遣でラオスに駐在し、指導を行っている。

 ラオスでは2014年から本格的に野球普及が始まり、韓国プロ野球初の3冠王となったイ・マンス氏が中心となって道具支援や野球連盟の設立などを行い、野球をする環境を整えてきた。その継続的な活動が実を結び、ラオスは昨年8月のアジア大会で国際大会デビューを飾った。クォン監督の下でタイ、スリランカと対戦したが、2戦2敗と残念な結果となった。それでもアジア大会に出場したことでラオス国内での女子チームが誕生するきっかけをつくった。

「野球をラオスでブームとしたい」

 韓国の高校野球界で実績を残したクォン監督がラオス代表監督としてラオス人にゼロから野球を教えている。普及活動が始まる以前は野球という言葉も存在していなかった場所であるため、教えることにかなり苦労している。

「ラオスの選手たちは野球というスポーツの仕組みを分かっていないため、これを最初から教えるとなるととても大変です」

 選手の練習時間も限られており、平日は約1時間。まだラオスには野球場はないが、バッティングセンターとカフェが併設された通称「野球センター」で練習を行う。また、週末はサッカー場で練習をしているという。ラオスの選手は昨年のアジア大会に向けて韓国で合宿を行った。その際には、韓国プロ野球の試合を観戦するなど、グラウンドがあり、試合をする相手がいる環境が整っている本来の野球を目にしているが、母国ではそう簡単にはいかない現状が続く。

 クォン監督に今のラオス野球に足りないものを聞くと、開口一番「試合経験不足」を挙げた。現地には「ラオJブラザーズ」というチーム1つしかなく、所属している選手が自然と代表選手になる。普段は試合をする相手がいないこともあり、1年間はほぼ練習のみとなってしまう。

 このような状況を少しずつ変えていくため、韓国のプロ野球関係者にも協力を要請しており、日本でも活躍したイ・スンヨプ氏が野球道具を、パク・ソクミンが2500万ウォン(約250万円)を寄付した。

 現在のラオス野球はまだ外部からの支援が必要な状態。クォン監督にラオス野球の次なる目標を聞くと「ラオス人になぜ野球をするのか、その理由を伝えたいです。そしてラオス国内で野球ブームを起こしたいですね」と話していた。野球をする環境が整えば自然と選手のレベルアップにもつながると考えているクォン監督。今後も母国の韓国とはまったく違う環境下で野球を教える日々が続く。成長には時間を要するが、こうした取り組みの継続が世界的な競技普及につながっていくのではないか。(豊川遼 / Ryo Toyokawa)

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