<再生への視点 統一地方選を前に>・1 長崎市区 人口ダム機能 若者流出、空き家点在 斜面都市に厳しい現実

 平成最後となる今春の統一地方選。その第1ラウンドの長崎県議選(3月29日告示、4月7日投開票)まで1カ月余りに迫った。人口減や地域医療、産業振興、道路整備など長崎県内自治体はさまざまな課題を抱える。県議選16選挙区ごとに、現場からリポートする。
 「両親のそばを離れたくはなかった。でも給料や福利厚生を比べ、結果的に県外の企業になった」
 東証1部上場の化学メーカー(東京)への就職が決まった長崎大4年の上野真菜さん(22)は今春、長崎県を離れる。古里は好きだ。地場企業からも内定をもらった。それでも、仕事の規模や海外勤務のチャンス、女性の離職率の低さなど県外企業に「ときめきを感じた」という。
 県によると、昨春卒業した大学生の県内就職率は43%。若者定着を促そうと、県などは県内企業の就職説明会を重ねるが流出に歯止めはかからない。県内大学の就職支援担当者は「ブースでの説明会など横並びでは(県外の)大企業に負ける。キャンプをしながら本音で語り合うなど採用プロセスにも差別化が必要」と行政に工夫を求める。
 1月、ショッキングな数字が出た。総務省が公表した昨年の日本人の人口移動報告。県都・長崎市の転出超過数は前年比488人増の2376人と全国市町村でワースト1位だった。県都には、県内から県外への人口流出をせき止める“人口ダム機能”が求められるが、同市のそれは、福岡を除く九州の転出超過6県の中でも最も低い(2015年実績)。県都の人口減は、長崎県全体の活力に影響する深刻な問題だ。
 同市も例年、進学や就職での転出が多くを占める。その背景について長崎大の山口純哉准教授=地域経済学=は「賃金が高い製造業の割合が小さく、“結婚の壁”とされる年収300万円を下回る職場が多い。より良い条件を求めて県外に転居する人が多いのでは」と分析。その結果、「人口減少が進み、空き家が点在する斜面地では福祉的ケアが効率的にできず、上下水道などインフラ維持の行政コストも上がる。コミュニティーが崩れれば安否確認ができず防災・防犯機能も低下する」と指摘する。
 同市の鍋冠山。市街を一望できる夜景スポットとして観光客に人気だが、中腹の斜面地にはツタに覆われた廃屋や基礎だけ残った空き地が虫食い状態に広がる。住民の女性(59)はため息をつく。「買い物がきつい。道が狭く消防車や救急車が入れない。住民のほとんどが高齢者。土砂災害などが起きても避難できない人が多いのではないか」。そこには斜面都市ならではの厳しい現実がある。
 人口流出などに伴い、増加が懸念される空き家の活用について、「行政が自治会や民生委員と連携して空き家や持ち主の情報を集めた上で、移住者とつなぐ仕組みが必要」。そう訴えるのは、鮫島和夫・元長崎総合科学大教授=居住地計画=だ。県も同市も、人口定着・移住促進策を新年度当初予算案の大きな柱に据えた。県都の再生、ひいては長崎県全体の活性化をどう図っていくか。模索が続く。

転出超過数が全国ワースト1位だった長崎市。斜面地には空き家や空き地が点在する=同市内

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