経済最前線 横浜発 海洋産業イノベーション(1)海流発電 「ゼロ」から世界初へ

 2017年8月、黒潮が流れる鹿児島県口之島約5キロの沖合。気温37度、焼け付くような暑さの作業船は緊張感に包まれていた。

 世界初となる水中浮遊式海流発電システム「かいりゅう」の実証試験。直径11メートルある発電用のタービン翼が海中でゆっくり回転を始めると、モニターを見守っていた技術者たちから「おおっ」と歓声が上がった。

 「自分たちがやってきたことは無駄ではなかった」。前例のないゼロからの開発。実験を重ね、試行錯誤を繰り返した日々が結実し、IHI(東京都江東区)技術開発本部海洋技術グループの齊藤宏幸主任研究員は「大変だったが、感動した」と語る。

 実証試験は7日間にわたって行われ、水中での自律制御システムや発電性能、浮体の安定性などを検証。最大30キロワットの発電に成功し、実用化に向けて大きく前進した。

 同グループの長屋茂樹部長は「終わって船で戻ってくるときの、みんなの満足げな笑顔が忘れられない。やってよかった」と振り返った。

 「かいりゅう」は全長、全幅ともに約20メートル、高さ約6メートルで水深約100メートルの水圧にも耐えられる。海底に設置した重りから係留索(ロープ)でつながれて「たこ揚げ」のように海中に浮遊し、海流で左右2基のタービン翼を回転させて発電する。

 最適な深度、安定した姿勢、最も発電効率のいい翼の角度などを自律制御する「電気をつくるロボットのよう」(長屋部長)だ。

 一方向に流れ続ける海流を利用した発電は設備利用率が50~70%と、太陽光や風力、潮流といった変動の大きい再生可能エネルギーに比べて高い。「昔からアイデアはあった」(同)ものの、技術的な課題も多く夢の技術とされてきた。

 「黒潮は世界でも有数の強い海流で、貴重な資源。そこからエネルギーを取り出すことができれば、日本のエネルギー事情に貢献できる」

 同社と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2011年、当初から黒潮にターゲットを絞って技術開発に着手したが、手本となる技術的前例のない開発は、困難の連続だったという。

 水中でタービン翼を回すと安定性が保てず、そのタービン翼も風力発電以上の強度が必要だ。安全面から絶対に切れない係留索の開発も求められた。約2メートルサイズの模型を作って水槽内での実験と設計変更を重ねた。「どこかに解決策があるはず。一歩一歩確かめながら進めた」と、齊藤主任研究員。

 「成功させられれば世界初。自分たちで一から考え、議論し、選び、それをスタンダードにしていける。責任も伴うが、すごく楽しい。技術者としての醍醐味(だいごみ)」。そんな思いが開発メンバーの支えになったと明かす。

 事業化の目標は21年度以降。将来的には直径40メートルのタービン翼を左右に2基備えて約2千キロワットの発電能力を目指す。同社の試算では、黒潮には数千基設置できるスペースがあり、大規模展開が可能という。

 今夏、「かいりゅう」は口之島沖で再び実証試験を行い、今度は1年間の長期にわたり信頼性を検証する。現在は技術開発本部のある同社横浜事業所(横浜市磯子区)で整備の真っ最中だ。

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 海洋をテーマにしたビジネス展示会「海と産業革新コンベンション」が20、21の両日、横浜市中区の大さん橋ホールで開かれる。出展する同市内の研究機関や企業を中心に、最新の海洋関連技術や研究の一端を紹介する。

実証試験準備中の「かいりゅう」。中央は浮力調整装置で左右に発電機がある=鹿児島県口之島沖(IHI提供)

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