横浜ゴム ジオランダー X-CV試乗レポート|ハイパフォーマンスSUVの走りを変える新タイヤ

横浜ゴム ジオランダーX-CV 試乗会

予想を裏切るほどに快適なジオランダー X-CVの走り

横浜ゴムのSUV用タイヤ「GEOLANDAR X-CV」(ジオランダー・エックスシーブイ)を、12月初旬の箱根ターンパイクと、2月初旬の旭川テストコース(TTCH)というふたつのステージで試すことができた。

ジオランダーX-CVはここ数年で一気に数を増やしたハイパフォーマンスSUV用のタイヤ。高速巡航を快適にこなすためにそのレンジは、最高速度270km/hに対応する「W」規格まで高められている。もちろんこうした巡航を可能とする高速道路は日本に存在しないが、それだけ高い速度域でも重量級SUVの走りを支えるハイウェイテレーンであることが、ジオランダー X-CVのステイタスである。

実際、箱根ターンパイクのドライ路面での乗り味は、予想を裏切るほど快適だった。M+S(マッド&スノー)規格をクリアしているとは思えないほど路面とのコンタクト感が上質で、走らせても非常に静かである。通常こうしたタイヤは雪上やオフロード性能を担保する関係から、トレッド面がゴツゴツとしている。深い溝に雪や泥を食い込ませて、それをかきむしるようにしてトラクションを稼ぐためだ。

しかしジオランダーX-CVのトレッド面を見ると、その面構えは夏タイヤのようにツルンとしていた。4本の主溝は深いがトレッド面が平らであり、「これで本当に雪道を走れるのだろうか?」と思わず疑ってしまうほどに。

横浜ゴム ジオランダーX-CV 試乗会
横浜ゴム ジオランダーX-CV 試乗会
横浜ゴム ジオランダーX-CV 試乗会

静粛性が高い理由は、5つにわかれるブロックの、パターンピッチをコントロールしているからだ。タイヤはブロックの角が接地するときにパターンノイズを発生させるが、ここで発生するノイズの周波数ピークを分散させることで、音量を抑えることが可能になるのだという。具体的な数値でいうと従来製品である「PARADA SpecーC(PA02)」に対してロードノイズを23%、パターンノイズを2%、ついでに転がり抵抗も3%低減したという。

横浜ゴム ジオランダーX-CV 試乗会

GクラスやXC90、レンジローバーなどの足元に

ただWレンジのハイウェイテレーンという触れ込みに対しては、ややタイヤの横剛性感が足りないように感じた。端的に言えばポルシェ マカンやジャガー FペイスのようにハンドリングコンシャスなSUVに対しては、同じ横浜ゴムでもADVAN SPORT V105のようなハイスペックタイヤの方が、その俊敏性を楽しめる。

しなやかなコンパウンド特性からだろう、一舵目の追従性は良好。しかし横Gが高まり、タイヤに荷重が大きく掛かった時のふんばり感は、夏タイヤに対してやや劣る印象だ。

そのトレッドにはアウト側ブロック剛性を高めた左右非対称のパターンを採用。内部には2層のナイロンフルカバーを搭載し、サイドウォールも2プライ構造とすることで剛性を保ってはいる。その挙動に唐突な姿勢変化などが訪れることはないのだが、低温時での路面追従性をカバーするためだろうやや腰砕け感が出てしまっているから、コーナリングに際して無理や無茶は禁物だ。

横浜ゴム ジオランダーX-CV 試乗会
横浜ゴム ジオランダーX-CV 試乗会

もっともこうした背が高く巨大で、車重もすこぶる重たいSUVを、スポーツカー顔負けの旋回速度で走らせてしまうこと自体、筆者は昔から大いに疑問である。日本の法定速度から考えてもコーナーではがんばらず、この気持ち良い乗り心地を楽しみながらゆったりと走るのが本来のSUVであるとも思う。

だから同じメルセデスでもGクラスや、レンジローバーやレンジローバー ディスカバリー、ボルボならXC60よりもXC90のようなSUVにこのタイヤは合うだろう。また現代的なモノコック系SUV用に向けてこのタイヤは開発されているが、それこそラダーフレームを搭載する本格クロカンを、アーバンSUVとして使うお洒落ユーザーにも、使い勝手がよいはずだ。

きわめてジェントルに走らせる分には直進性が高く、レーンチェンジ程度のステア角であればその反応もリニアで路面からのインフォメーションもリニアである。

横浜ゴム ジオランダーX-CV 試乗会

過不足のないオン/オフ性能を備えるジオランダー X-CV

さてそんなジオランダーX-CVを、今度は横浜ゴムのテストコースであるTTCH(タイヤテストセンター オブ北海道)の圧雪路面で試した。

ここで驚かされたのは、その雪上走破能力の高さだった。横浜ゴムの説明では、ジオランダーX-CVは性格的にオンロード重視で、雪道は急な降雪にも対応する緊急回避的なグレードだと述べていた。つまり本格的なオフロードであれば同じジオランダーでも「H/T G056」の方が相応しいようだが、どうしてどうして。ガッツリ走ってくれたのである。

ここには前述したしなやかなコンパウンド特性がまず効いているのだと思う。ジオランダーとしては初搭載となったマイクロシリカが、氷を含む硬い路面に追従するようだ。そしてジープ グランド チェロキーの2380kgという車重も、接地面圧を保つのに役立っている。ちなみにこのシリカはウェット性能や耐摩耗性にも貢献する。

横浜ゴム ジオランダーX-CV 試乗会
横浜ゴム ジオランダーX-CV 試乗会

そしてドライ路面では少し剛性不足に感じられた理由のひとつである横長のサイプが、今度は路面への密着性を高めている。速度域の低い雪道であれば2D/3Dタイプの入り組んだ形状がきちんとトレッド面を支え、バランスを取る。ハンドルを切ったときもグリップの立ち上がりが手応えとして伝わり、しなやかながらも非常に安心感が高い。

ここにチェロキーの4WD制御が加わると、大胆にアクセルを踏み込んで5.7リッターV8(352PS)のパワーを炸裂させない限り、ちょっとやそっとじゃテールが流れて行くようなことはなかった。コーナリングでは4輪を微妙に滑らせつつもカウンターを切るほどではなく、縦方向にパワーを掛ければ進路を保ってくれる。

タイヤサイズが大きく、冬タイヤへの履き替えが面倒を通り越して一仕事なSUVオーナーにとって、このバランスの取れた性能は魅力だろう。ちなみにサイズは18インチから22インチまで、全17サイズを用意している。ニーズの多様化が進むなか、過不足ないオン/オフ性能を持つジオランダーX-CVは幅広いユーザーにマッチするSUV用タイヤのではないかと思えた試乗であった。

[筆者:山田 弘樹 / 撮影:小林 岳夫、横浜ゴム]

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