第11回【練馬区】(上)「攻めの防災」に挑む 安全意識に危機感、積極的に実践

練馬区役所(出典:写真AC)

東京都23区内の災害対策は多様です。それは、地形や過去の経験が様々だから。お住まいの地域の防災対策が「その区ならでは」のものになっていることをご存知ですか?まずは、住んでいるまちのことを知り、そのまちで安心して暮らすための対策を知る。その行動次第であなたの大切な人の命が救われるとしたら…?23区の「その区ならでは」をここで一挙にお伝えします!今回は、練馬区です。

■練馬区は安全?

東京都が発表している「地震に関する地域危険度測定調査結果」を見ると、練馬区は、総合危険度が4の地域が2地域だけ。202町丁目の中でも危険性がより高いと言われているランク「5」の町丁目はゼロ。ランクが1に向かって、危険性がより低くなるが、「1」の町丁目が67町丁目、「2」が94町丁目、「3」が39町丁目、「4」が2町丁目。ランクだけを見ると比較的「安全」に感じます。

この調査は、地震の揺れによる危険性を町丁目ごとに測定しています。危険性を(1)建物倒壊危険度(建物倒壊の危険性)(2)火災危険度(火災の発生による延焼の危険性)(3)総合危険度で評価しています。(3)の総合危険度は、(1)と(2)の指標に危険地域からの避難や、消火・救助などの災害時における活動のしやすさ(困難さ)を加味して総合化したものです。

地震に関する地域危険度測定調査の指標

「練馬は、危険度が高いところが相対的にはない」。
「火災が延焼しやすい木造住宅の密集地域がそんなにはない」。
「水害で沈没する心配もない」。
「比較的地盤が固い」。

というイメージが浸透しているように見えます。

「しかし、『想定外』のことが起こるということは他の地域でも実際に発生しています。何が起こるかわからないという危機感を持つことが大切です」。と、安全という意識の蔓延に危機感を持つ練馬区危機管理室 区民防災課長 杉山賢司さんはお話されます。

東京都の調査では、建物倒壊の危険度や火災延焼の危険度などの視点からの結果のみです。それぞれのご自宅の中の対策を見直してみたいですね。建物が倒れなくても家具が倒れてしまうことでけがをする危険性もあります。

「個」の安全性を考えた上で地域にも視点を向けるという考え方を区民の方と一緒に創っていこうと練馬区危機管理室の方々は、対策を練られています。

区職員が区民の方へ直接防災の話をする機会が限られており、「区民の方は、自分の地域が安全なのかわかりにくい面もある。そこで、様々な機会をとらえ、地域の実際の状況を知り、防災の意識づけにつなげていきたいと思っています」と話すのは、危機管理室 区民防災課 防災学習センターの萩原洋介さん。

萩原さんは、地域の町会、自治会、事業所、学校などに出向き出前防災講座を開催されているので、区民の方の防災意識を肌で感じられています。

対策の基本から丁寧にお話されています

一人ひとりの意識を変革し、先手を打って対策を行っていく「攻めの防災」を区長筆頭に取り組もうとされています。

その取り組みの一つが「ねりま防災カレッジ」。

2014年に開始され、対象者別に講座を開催。自助クラス、共助クラス、区民防災組織カリキュラム、小学生カリキュラム、中学生カリキュラム、事業所向け防災講習会、中高層住宅向け防災講習会、乳幼児の保護者向け防災講習会、女性防災リーダー育成講座、食と防災など対象も内容も豊富な種類の講座が展開されています。

自分たちのことは自分たちで守る「自助」、地域住民同士で助け合う「共助」など防災の考え方を様々な手法で学びます

「食と防災」というテーマであれば、災害時に家族の栄養補給をしっかりするためにも身近に感じられる内容かもしれないですね。小学生や中学生のカリキュラムもあるので、お子さんが体感してみると、家族で防災について話し合うきかっけになるかも。

■まずは一度、ねりま防災カレッジに参加!

災害時、自宅が倒壊する危険性がある場合、火災、避難勧告または避難指示等が出された場合、区民は、避難拠点等へ避難します。

避難拠点というのは、1995年の阪神・淡路大震災の被害の影響もあり、予想される避難の状況から練馬区で独自に定めたもの。区立の小・中学校は、地域での災害時の活動拠点にもなることから、単に「避難所」や「避難場所」と呼ばずに「避難拠点」と名付けられています。

避難所や避難場所は自宅が倒壊した際など、とどまることが困難になった時に避難する場所。よくテレビでも災害時の様子を放映される際に体育館の様子が映し出されていますね。

しかし、避難するだけではなく、給水車が到着したり、被災地外からのボランティアを受け入れたりと活動の拠点にもなるので、「避難拠点」と名付けられたのですね。

そして、練馬区では、すべての区立小・中学校を避難拠点として指定。区の区域内において震度5弱以上の地震が発生した際には、避難拠点を開設し、避難者を受入れます。

カレッジ内でも避難拠点についての説明が行われています

また、避難拠点において避難生活を送ることが困難な方を対象に、福祉避難所を開設します。

具体的には、介護を要する方や障害をお持ちの方などです。災害時要配慮者(さいがいじようはいりょしゃ)と呼ばれます。福祉避難所は高齢者施設や障害者施設等を指定しています。

いろんな施設の名前が挙がりました。これでは、災害時にどこに行けばいいのか迷ってしまいそうです。

まず、避難する際に向かうのは「避難拠点」。災害時に安全な場所を探し求めた時に、近所のどの区立小・中学校に行けばいいのか事前に調べておく必要がありそうですね。知っておかないと…いろんな場所を行ったり来たりしてしまいそうです。

知っておきたい情報を災害が起こる前に得られるのが「ねりま防災カレッジ」です。

■福祉避難所を運営するのは誰?

避難する場所の一つである「福祉避難所」を運営する立場である事業所を含めて、区内の福祉事業所の方々が集まり、避難してきた方々にどのように対応していくかをシミュレーションするための講習会「災害時の福祉事業所運営を考える〜利用者や避難者への円滑な対応に向けて〜」がねりま防災カレッジで行われたので、参加させていただきました。

続々と訪れる避難者の方の対応に追われます

机の上に福祉事業所の見取り図が置かれ、一枚一枚のカードを避難者として見立てます。避難者(演習の中ではカード)が続々と避難所に訪れます(演習の中ではカードが配られます)。参加者の皆さんは避難者を受け入れ、実際に避難所の運営を体感されました。

避難者一人ひとりの特徴をしっかりと捉え、対応を検討します

体験した事業所の職員の方は、「自分がいる事業所が避難所になることはわかっていたけど、実際にどのように対応するかということまでイメージができていなかった。体感してみて、『対応は職員の誰がするの?』『何名の職員で何名の方の対応ができるだろう?』とか想定しないといけないことがたくさん挙がりました。」とお話されていました。

「いざというときの受け入れが可能かどうか、受付をするのは誰か、受け入れ可能な避難者の人数は何名か、トイレが詰まってしまったらどうするかなど具体的な想定をして体制を整えておいてください」と、お話されたのは、講師を務められました兵庫県立大学大学院 減災復興政策研究科 准教授 阪本 真由美さん。

福祉避難所では病気や障害を抱えた人が来られます。専門用語の事前理解も重要です

区立小・中学校が指定されている避難拠点では、要配慮者の居室を設けることも検討されています。要配慮者の方だけが寝泊まりするお部屋。避難拠点には、介護などの専門職の方はいない状況が大いに考えられます。

「事前に体制を整えておく」のは誰なのでしょうか。
福祉避難所であれば、そこに勤務する職員の方々。

では、避難拠点では?
…そこに住んでいる住民の方々なのです。学校にいち早く到着したあなたが運営を担う立場になるかもしれません。でも、何から始めたらいいのか…どうやって進めたらいいのか、わからないことだらけですよね。少しでも段取りを理解するためにもまずはねりま防災カレッジに出かけるところから実践してみると何か一つでも不安が消えるかも。

■ねりま防災カレッジで学び、行動に移す!

ねりま防災カレッジの講座を受けたことがきかっけで、実際に取り組みを進めている福祉事業所もあります。関町・立野地域で防災のネットワークの会を地域内にある福祉関係の事業所、施設の方々が協働で発足されているのです。自分たちの施設だけではできないことも複数の施設で協力して、「できること」を増やすために取り組まれています。

地域内にある福祉施設、児童施設、高齢者施設の約40施設で連携体制を整えられています。地域内の事業所とまずは顔を合わせる機会を年に1回つくるところから実践。

同じ地域内にある福祉施設同士でも日常ではなかなか顔を合わせる機会がありません。日常業務で1日はあっという間に過ぎていきますよね。まずはお互いにどのような事業をしているのか共有し、そこからそれぞれの役割を決めていくとのことです。

地域の住民同士も顔が見える関係性を築くことが大切かもしれないですね。
「私は、看護師をしています」「私は、助産師です」「私は仕事はしていないので、昼間、家にいます。お子さんのお迎えなら任せてください」「私は体力だけは自信があります。何か重たいものを運ぶ際は声をかけてください」などなど、お互いの特徴や職能を知り合うだけでいざという時に、効率よく助け合える関係性が築けるかもしれませんね。

■受講してからどう行動に移すか…

今回ご紹介したねりま防災カレッジの内容は、福祉事業所で働く方々向けの講習会でした。そこには、実際に携わる人が日常の業務ではなく、「防災」に特化してとるべき行動を考える時間と空間。普段、「考えないと」と思っているけど、後回しになってしまっているかもしれない「防災」について試行錯誤する場がありました。

ねりま防災カレッジに足を運べば、集中して考える時間を得られます。そこで、吸収したことを日常に戻って、一つでも実践してみることで「防災」意識が変化していきそうですね。

そして得たことをどう地域に還元していくか。「ねりま防災カレッジを受講してから、住んでいる地域における防災活動にどのように繋げるのか…というところが難しいところ。個人で受講はするけど、地域で防災活動をするのはまた一つハードルがあると思うので、共助の考えを広めていきたいです」と萩原さん。

どうしたらいいのだろう…と悩んでいるのは、行政の方々も同じ。受講してくださった住民の方の活動の機会を懸命に築こうとされています。

ねりま防災カレッジに行くのはハードルが高いな…と思った方は、「防災学習センター」へ!練馬区には、学校跡施設の校舎を活用して、防災に対する大切なことを学べる施設が常設されています。

■練馬区立防災学習センター
https://www.city.nerima.tokyo.jp/shisetsu/bousai/bousaigaku/bosaigakushucenter.html

住民の方と一緒に防災を考える攻めの企画を様々な手法で考えていらっしゃいますね。

防災学習センターでの見学、そして「興味があるな…」と感じたらねりま防災カレッジの受講、まずはそこから始めてみませんか。

(了)

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