<再生への視点 統一地方選を前に>・3 平戸市区 企業誘致 優秀な人材つなぎとめ 最西端の地 物流で不利

 「近隣自治体には工業高もある。人材供給能力の高さを生かすべきだ」「地震など災害リスクの少なさで売り込もう」。平戸市田平町に市が整備した工業団地。3月の分譲開始が迫る中、担当課では企業にどうアピールするか、熱く意見が交わされている。
 市内で4カ所目の工業団地。西九州自動車道の全線開通を見越したアクセス向上を売りに、市が総工費約4億9600万円をかけ整備した。広さ2万400平方メートル。市はここを製造業に分譲し、約100人の地元採用につなげる計画を立てた。だが-。
 市は2015年から県内外に募集をかけ、関西や東海地方を中心に製造業への営業を重ねている。本年度は企業が土地を購入した場合、建物や機械設備に対する助成制度もつくった。それでも進出に名乗りを上げる企業は現れない。本土の端に位置する同市。物流面で難色を示されるという。
 市などによると、製造業は一般的に他業種に比べ、賃金水準が高く、地域の人口が減少しても売り先が地元にとどまらないため、将来的に継続できる強みがある。だが国の統計によると、県内の製造業従事者割合が10.3%(16年)に対し、同市は8.0%(13年)。その製造業も同市の場合、食品の割合が高いが、ほとんどが個人事業主で安定した雇用が難しい。
 こんな数字がある。市が17年度、地元就職について市内高校生にアンケートをしたところ、「安定して働くことに不安。将来設計もしにくい」などの声が多く、それを裏付けるように同年度の市内就職率は18%にとどまった。「優秀な人材は、より良質な雇用を求め市外に流れている」。市の担当者は頭を悩ませる。
 企業誘致などによる安定した雇用の場づくりとともに、市は現在、テーマパーク「キッザニア」監修の職業体験イベントや、高校生が対象の市内企業見学バスツアー開催など地元就職への対策も進める。市は今後、夏休み期間中、高校生を1週間程度地元企業に派遣するインターンシップも検討する考えだ。
 同市への企業誘致は07年以降2社で、うち1社はニーズとのずれから約3年で撤退している。「理想は農漁業や観光、製造業が連携できる企業の誘致だが、県も市も事が運んでからしか動きが分からない。誘致の経過など情報を開示し、どんな企業が必要か、平戸の未来のために市民の声も取り入れるべきだ」(地元経済関係者)。人口減少と向き合う最西端の地から、そんな切実な声が聞こえる。

3月の分譲開始が迫る工業団地。進出に名乗りを上げる企業はまだ現れていない=平戸市田平町

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