ミスで狂った歯車 初の戴冠逃す 栃木ブレックス 天皇杯全日本選手権大会決勝リポート

 初の栄冠は手の届くところにあった。第94回天皇杯全日本バスケットボール選手権大会の男子決勝に臨んだ栃木ブレックスは、因縁のライバル千葉ジェッツと激突。延長にもつれ込む大接戦を演じた末に無念の涙をのんだ。勝負の明暗を分けたポイントとは―。

 延長残り3秒。「外れてくれ」。

 客席の半分を埋めたブレックスファンの祈りもむなしく、千葉ジェッツのエース富樫勇樹が放った3ポイントシュートは真っ直ぐゴールへと吸い込まれた。

 71―69。初優勝を狙った栃木ブレックスの挑戦が終わった。

 1月10~13日に開催された「第94回天皇杯全日本バスケットボール選手権大会・ファイナルラウンド」。2次ラウンドを勝ち上がったB1リーグの8チームがさいたまスーパーアリーナに集結した。

 大会キャッチコピーは「心に響く、一発勝負」。王者になるには4日間で最多3試合を戦うタフさ、選手層の厚さ、そして勝負強さが求められる。

 ブレックスは10月から腰痛のため長期離脱している田臥勇太主将をはじめ、山崎稜、エリック・ロバーツが欠場。出場可能な選手がわずか9人という苦しい台所事情。それでも周囲の心配をよそに、準々決勝でサンロッカーズ渋谷に77―71で勝利し、準決勝では京都ハンナリーズを71―62で撃破。3年ぶりに決勝へと駒を進めた。

 平成最後の日本一を懸けて戦う相手は大会2連覇中で、B1東地区で首位を争う千葉。ブレックスが2017、18年の準々決勝で2年連続で屈しているライバルだ。

 序盤から追う展開となり、完敗した過去2戦の苦い記憶が脳裏にちらつく。だが、最初に主導権を握ったのはブレックスだった。

 「インサイドはある程度1対1で守り、3ポイントシュートとトランジションは徹底してやらせないプランだった。そこがやられなければ爆発的な得点には結びつかない」

 前半は安齋竜三HC(ヘッドコーチ)が描いた青写真通りに進んだ。

 第1クオーター(Q)開始直後から、千葉の司令塔・富樫を2人掛かりで囲み、パス、シュートコースを消して攻撃の起点を潰した。攻守の素早い切り替えから繰り出される攻撃も、コミュニケーションの取れた素早い守備で阻止。守備から主導権を握ったブレックスは、この日3本の3ポイントシュートを決めた遠藤祐亮、センター陣らの活躍もあり、前半を32―26で終えた。

 ハーフタイムを挟み、試合の流れが変わりやすい第3Qへ。開始4分で同点とされ、そこからはまさに一進一退の攻防。ビッグマンを中心にしたインサイドへの1対1や速攻で流れを手繰り寄せたい千葉に対し、ブレックスは渡邉裕規、栗原貴宏がオフェンスファウルを誘うなど一歩も引かない守備で必死に対抗。我慢の時間帯が続いた。

 そして、47-47で突入した第4Q。

 「最後までどちらに転ぶか分からない展開だったが、終盤で自分たちがターンオーバーをし、アドバンテージを取れるところで攻めきれなかった」。ジェフ・ギブスはこう振り返る。

 第4Qだけでブレックスが犯したターンオーバーは4回。このうち失点に結びついたのは1回のみだったが、貴重な攻撃権を失ったことがボディーブローのように効いてくる。

 第4Q序盤に1対1を狙ったライアン・ロシターがスチールされ、千葉が速攻でレイアップシュート。その後も、千葉は絶妙なスクリーンプレーからガード西村文男が開始4分間で7得点。この日最大の6点リードをつくり、赤い応援団のボルテージは一気に最高潮に達する。

 だが、ブレックスは残り3分に追いつき最後はシーソーゲームに。残り3分には2度のオフェンスリバウンドを奪いながらもタフショットで終わるなど、勝負どころで決めきれなかった。

 そして59―60で迎えた残り15秒。ギブスが1対1を挑んでフリースローを獲得。1本目を決めたが、逆転の懸かった2本目を外して60―60。勝機も十分にあった中で、40分間で試合を決めきれなかったことが勝負の分岐点となった。

 5分間の延長戦では、連戦の疲れが選手たちに大きくのしかかった。ゴール下で奮闘したギブスがファウルアウト。1ショットを争う接戦に、ブレックスは残る体力を注ぎ込みオールコートプレスなどで粘り強く守り、攻めては点取り屋ロシターが1対1で加点。残り28秒で67―68の1点ビハインドとなったが、ロシターがミスマッチを突いてファウルを誘い、フリースローを2本沈め、残り17秒で69―68。

 「この1点を守り切れば、初の日本一」

 千葉が最後に選んだ攻撃は、富樫とマイケル・パーカーとのスクリーンプレーだった。

 ブレックスの守備網にズレを生じさせ、一瞬できたノーマークで富樫が3ポイントラインからラストショット。

 「最後の最後で集中力が切れてしまった」と遠藤。シュートカバーに入った竹内公輔は「マークに自分が行くのか、遠藤が行くのかコミュニケーションをしっかり取れれば解消できていたかもしれない」とラストワンプレーを悔いた。

 延長戦で狂った歯車。

 試合後、安齋HCは「細かいミスが大舞台での負けにつながると自分も分かっていたし、選手にも伝えていたが、今日はそれが出てしまった」と語った。

 富樫を第4Qまで無得点に抑える完璧なディフェンスだったが、最後の5分間で5得点を許した。また、延長戦での11失点のほとんどがオフェンスリバウンドから。リーグ屈指のリバウンド力を誇るブレックスが、ゴール下の争いで後手に回ったことが痛かった。

 加えて、重要な局面の攻撃は千葉の守りやすい1対1に偏り、スチール、ブロックショットで攻撃権を奪われた。

 「そういうところで個人になってしまうのが弱さであり、オフェンスが伸びないところにつながっている。たらればなんていくらでもあるが、そこのところを全体的な反省として個人個人が持っているかが大切。こうしておけば、ということを思わなかったら次もまた同じことをする」。安齋HCは選手たちに意識改善を求める。

 だが、ここが終わりではない。

 「残りの何秒間で勝負が決まってしまうのはバスケットの残酷さでもあり、面白さでもある」とゲームキャプテンの渡邉は悔しさをにじませつつ、「振り返れば修正できた点もあるが、一発勝負の中で出し切れたことは次につながる。競った試合に勝ちきれないという自分たちの現状を知って、一人一人がチャンピオンシップへ向けて成長することが大切」と糧を強調した。

 Bリーグ初代王者に輝いた2016―17シーズンも、千葉に大敗した天皇杯など多くの敗戦から這い上がった結果だった。栄光までの道のりには挫折や壁にぶつかることも付きもの。ここが王座奪還への再スタート地点になる。

野中美穂・文 / 橋本裕太・写真

(この記事はSPRIDE[スプライド] vol.29に掲載)

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