憧れのサーキット走行、実は安全運転にも繋がるって本当ですか?
車好きとして生まれたからには、サーキットを自由に走ってみたい。そんなことを考えたことのある方は、きっと少なくないことでしょう。
そんな憧れのサーキット走行を、走りのプロの指導のもと安全に体験できるというのなら。それは夢のような体験ではないでしょうか……。
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モータージャーナリストの太田哲也氏が校長を務めるドライビングレッスン「injured ZEROプロジェクト Tetsuya OTA ENJOY & SAFETY DRIVING LESSON アドバンス&スパタイGP 第5戦」が、2019年2月16日に千葉県の袖ヶ浦フォレスト・レースウェイで開催されました。
このイベントでは、袖ヶ浦フォレスト・レースウェイを参加者自身の愛車で走行できるほか、太田校長の運転を助手席で体験することや、教習車の先導でライン取りを確認することができます(参加プログラムによって内容が変わる可能性があります)。
特長は、イベントの目的及び理念に、一般道での死亡・負傷事故ゼロを目指す「injured ZERO」を掲げていること。事故をなくすための練習の場としてサーキットを使っているということです。日常走行で発生する極限の状態を安全な環境で体験するという、例えるなら、職場や学校、地域で行われる「避難訓練」のようなものかもしれません。サーキット初体験という参加者も多く、初心者でも安心して走行することができます。
今回オートックワンからは、わたくし新米編集部員Iもこのイベントに参加させていただきました。参加車両はフォルクスワーゲン ポロ GTIです。
私自身もサーキット走行は初体験。イベント前には多少の不安もあったものの、結論からお伝えすると一般道での運転にもとても役立つ、非常に楽しく有意義なイベントでありました! 運転する機会のある全ての人に受講していただきたいとさえ感じる、濃密なレッスンの模様をお届けいたします。
サーキットを安全に走るために……座学をしっかり受講
まず、一般的なサーキット走行では、事前にヘッドライトへの飛散防止テープ貼り付けや、フロアマットの取り外し、荷物の積み下ろし、メカニカルな部分の点検など事前の準備が必要となります。こういったことも、参加してみないと分からないものですよね。
準備を済ませたあとは、座学を1時間受講します。太田校長や講師陣から、サーキット走行でのルール・マナーや、コース上で走るべきラインの丁寧に解説があるので、初心者でも安心です。今回受講したコースは半日で全てのプログラムが終了するものでしたが、丸一日必要なコースの場合は午前中全て座学となり、午後に走行タイムが設けられる形となるそうです。
座学が終了すると、いよいよサーキット走行の時間となります!
ベストな走行ラインを現場で徹底確認
まず私が体験したのは、太田校長の先導する教習車について行くことでコースのライン取りを覚えるという先導車付きの走行です。複数台の隊列走行で1周した後、先導車の次の車が最後尾に移動し、これを繰り返していきます。
しかし、先導車と離れすぎないように注意を受けていたにも関わらず、早速離れすぎてしまう私。「追突するんじゃないか」という恐怖が離れなかったことから、最初の周回では近づくことさえやっとでした。
さらに、先導車から微妙に外れたラインを走ってしまう、という失態も何回か犯してしまいます。先導車と違うラインを走ると、後続の車が違うラインを覚えてしまうので本来やってはいけないのですが、全く同じラインをトレースするということは、思った以上に難しいと感じます。“真似っ子”さえ難しい状況で、本番ではちゃんと走れるのでしょうか……。
フリー走行と同乗走行を体験! プロと素人の走りの差とは
そして、自由な走行が許されるフリー走行がいよいよ始まります。緊張もあるせいか、出走直後はアクセルを全開にすることさえ、出来ているようで全く出来ていない状態に。この原稿を書きながら思い返すと単純に「思い切りの問題」かとも思いますが、そもそも1回もやったことのないことというものは、出来ないし、分かりません。
数周して多少慣れてきた頃に、ついにアクセルを全開にすることに成功。そして、ポロGTIのアクセルの奥に「コツン」と当たるボタンのような感触があることが認識できました。この仕様に関して知識として知ってはいたものの、体感したのはこれが初めてです。「これか」と新鮮な気持ちになりました。「知る」と「体験する」は、全く違うものだと、改めて感じます。
その後、太田校長との同乗走行も体験させていただきました。自分の運転より数倍強いGが身体にかかりますが、教習車であるフォルクスワーゲン ゴルフ GTIはパーフェクトな走行ラインを通過し続けます。絶対にコースアウトすることはない、という不思議な安心感さえ持ちました。
また、走行中も太田校長の解説は絶え間なく続けられられるため、ライン取りのイメージを分かりやすく掴むことができます。
参加者の声をご紹介
ここで、貴重な休憩の合間に感想を語ってくださった参加者の声をご紹介します。千葉市にお住まいのKさんは、ランサーエボリューション9で参加されました。10年以上通勤等で利用されているそうですが、しっかりとメンテナンスされていて、傷一つないきれいなボディが印象的です。
このイベントには初参加というKさん。走ってみた最初の感想は「ブレーキングのタイミングがわからない」ということでした。しかし、同乗走行を通じて「太田校長のブレーキのタイミングは自分よりかなり早めで、コーナー出口でアクセルを入れるタイミングも早かった。自分のこれまでの運転とかなり違いがあり、参考になった」と、コメント。袖ヶ浦フォレスト・レースウェイのライセンスも取得したい、と今後の練習にも意欲的な様子でした。
太田校長にもインタビュー! 一般道で活かせるテクニックとは
さらに、お忙しい太田校長にもインタビューの時間を設けていただきました。
太田校長によれば、この走行会イベントが始まったきっかけは40歳以上の社会人レースクラブ「太田哲也とオヤジレーサーズ」(正式名称:TEZZO RACERS CLUB)を主催したことだそうです。この活動のコンセプトは「普通の社会人がレースに出る」だったそうですが、この活動を昇華させ、レースに興味のない方でも参加できるようにすることで、社会全体の事故を減らせるのではないか、という考えから今の形式に変化したといいます。
また、太田校長はこういったイベントを通じて「意識して走る癖をつけて欲しい」と語りました。
「安全運転とは『速度を出さないこと』と勘違いされていることも多いが、実はそうではない」と指摘します。「普段、普通の人は目だけの情報で運転しているが、サーキットでは、加速時やコーナーで身体に受けるGやハンドルの反応など、視覚以外の様々な情報が得られる。これを1回体験すると、雪道のような滑りやすい路面で『これ以上速度を出すと滑り出しそうだな』という予兆を感じ取ることができる」と、限界に近い環境をサーキットで体験することの重要性を解説しました。
さらに「事故のほとんどはヒューマンエラー。そしてその原因は漫然とした運転が多い。普段からボーっとせずに運転することが大切だが、サーキットでは、旗の確認からアクセル操作、ライン取りもしないといけないのでボーっと走ることができない。考える癖をつけることができる」と語っています。
最後の走行! 課題を克服できるか?
そして、いよいよ最終枠のフリー走行が始まります。それまでの走行でフルブレーキを踏めていないこと(運転にメリハリがないこと)が課題だった私は、コーナー手前でブレーキを踏み込む力を徐々に強くしていきました。
ここでの注意点は、コーナーへの入り口・出口で行う周囲の安全確認。自車の周囲を他の車が走行していないか確認し、他車がいる場合は走行ラインを妨害してはいけません。サーキット走行では、自分のブレーキングやハンドル操作だけではなくこのような部分にも気をかけることが求められます。
そして、他車がいないことを確認した後に、ついにメインストレートから第一コーナーに入る手前で時速150キロからフルブレーキ! 右足にABSの反応を感じながら、ポロ GTIはコーナーの出口へ鼻先を向けます。初サーキットのドライバーによる強いブレーキングにも関わらず、車体の姿勢が乱れることはありません。私はこの車の“限界”が高いレベルにあることを、知識ではなく身体で感じたのでした。
その後の走行では、これまでの走行を通じて学んだことを私なりに総復習。チェッカーフラッグを受けるその瞬間まで、心躍る瞬間は続いたのでした。
体験したことのないことは「できない」「分からない」という当たり前のこと
走行タイムが終了した後は、表彰式・豪華景品が当たるじゃんけん大会を開催。記念写真も撮影し、走行会は無事終了しました。
サーキットを出た後、首都高速を走行している時に早速感じられたのは、運転する車への信頼感が増したことと、運転中の周囲の確認が“ラク”になったことです。
まず、過酷な走行にも応えられることがわかると、車への信頼感は俄然増してきます。万が一、高速道路で急ブレーキを踏まざるを得ない場合に陥ったとしても「この車は安定して停止出来る」ことが分かっていると、運転にも余裕が出てきます。愛車に対して「こいつ、やるじゃん」と、より愛着が湧くことも多いでしょう。
また、サーキットでは膨大な情報を瞬時にチェックする訓練ができることから、通常の道でも色々な情報を早めに見る癖が出てきます。数台前のブレーキランプ、見えづらい標識……。こういったものが、これまで見ているのに「見えていなかった」ことには、ある意味ゾッとします。
私含め多くの方は、1回もやったことのないことは「出来ない」「分からない」が当たり前です。だからこそ、こういったイベントを体験することで、事故を回避できる可能性を上げることが大切なのではないでしょうか。
もちろん難しいことを抜きにしても、非日常的な体験を味わえる楽しいイベントということは間違いありません。皆さんも参加されてみてはいかがでしょうか。
[筆者:イソダ カオル(オートックワン編集部) / 撮影:小林 岳夫]
※今回筆者が受講したクラスは「エンジョイ・アドバンス」。他には、スポーツ走行の基礎から学べる「ベーシック」クラスなども有り。詳細は公式ページをご確認ください。