トヨタ「センチュリー」が“日本人ウケ”する理由…超高級車に隠されたデザインの秘密

©株式会社サイゾー

「トヨタ センチュリー | トヨタ自動車WEBサイト」より

 今年は元号が変わるという歴史的な年。そんななか、10月に予定されている新天皇の祝賀パレード車にトヨタ自動車の「センチュリー」が選ばれた。

 そのときのインターネット上の反応は、おおむね歓迎だったと記憶している。パレード車はオープンカーになることが予想され、製作予算は8000万円にのぼるという報道があった。しかし、高すぎるという批判はあまり見られなかった。

 現行センチュリーは2017年の東京モーターショーで発売前の車両が一般公開され、昨年6月、21年ぶりのモデルチェンジを実施した。このときも、デザインを中心に好意的な意見が多かった。昨年、20年ぶりにモデルチェンジしたスズキの4輪駆動車「ジムニー」「ジムニーシエラ」に通じるものがあった。

 そういえば、ジムニーとこのセンチュリーにはもうひとつ、角張ったデザインという共通項もある。最近のクルマは曲線や曲面を多用したデザインが多い。燃費にも影響を与える空力特性の追求という理由もあるが、疾走する肉食動物のイメージを盛り込んだというデザイナーの説明もよく聞く。しかし、多くの人が長い間木造住宅で暮らしてきた日本人は、欧米人より水平・垂直のデザインに親しみを持つ傾向にある。こうした理由から、ジムニーやセンチュリーのスタイリングに好意を寄せる人が多いのではないかと思っている。

 しかも、センチュリーはトヨタグループの創始者である豊田佐吉の生誕100周年を記念して1967年に登場した初代、最初のモデルチェンジで生まれた2代目、そして今回の3代目と、デザインにブレがない。顔つき、横からの眺め、後ろ姿と、どこから見てもセンチュリー以外の何物でもない。

 同じトヨタでは「ハイエース」や「ハイラックス」などの商用車にも、モデルチェンジを繰り返してもイメージが変わらない車種が多い。活躍の場が絞り込まれていてプロのドライバーが操る点は、センチュリーとこの2車種に共通している。

●“一般人”が手を出しにくいセンチュリーの秘密

 ただし、ジムニーやハイエースとセンチュリーの間には越えられない壁のようなものが存在する。センチュリーは一般向けに販売しているのに、多くの人は購入しない。では、どういうユーザーをターゲットにしているのか。英国のロールス・ロイスと同じで、皇室の方々を想定していると考えるのが自然だろう。

 実はセンチュリー、新車では2000万円近くする超高級車だが、中古車ではそれほど高くはない。日本を代表する中古車情報メディアである「カーセンサー」で2月はじめに調べたところ、走行距離10万km以上、2005年以前という個体が多いものの、200万円以上が41台、100~200万円が56台、100万円未満が47台という結果だった。

 中古車が安いのは買うときだけで、その後の整備や修理の費用は新車と同等であることに留意する必要はあるが、一般人が手を出しにくい立ち位置も、この相場形成に影響しているようだ。

 高級セダンというと、エアロパーツを装着したり派手なアルミホイールを履いたりというカスタムを施した、いわゆるVIPカーのベースになりがちだ。しかし、センチュリーでそのような改造車はほとんど目にしない。皇室への尊敬の念が表れているのかもしれない。

 ところが最近、センチュリーのカスタムが現れた。しかも、仕立てたのはメーカーのトヨタ自身だった。トヨタが昨年立ち上げたスポーツカーブランド「GR」(ガズー・レーシング)の頂点に位置する車両として、純白のボディに黒いグリル、赤いピンストライプを組み合わせた「センチュリーGRMN」(MNはマイスター・オブ・ニュルブルクリンクの略)を製作したのである。

 豊田章男社長をはじめとする重役専用車というこのセンチュリー GRMNは、正月の箱根駅伝では大会本部車に起用され話題になった。直後に開催されたカスタムカーの祭典、東京オートサロンでは黒いボディが展示された。

 現状ではこの2台だけだというセンチュリーGRMNもまた、逆にセンスの良いカスタムであると賞賛する声が多い。しかも、ノーマルのセンチュリーともども、欧米の高級車とは明らかに違う日本独自のたたずまいを持っていると感じる。

 こうなると、新天皇の祝賀パレードに起用予定というセンチュリーにも期待が持てる。欧米の高級オープンカーとは異なる日本独自の華やかさで、我々を魅了してくれることだろう。
(文=森口将之/モビリティジャーナリスト)