「怪我して辞めることになるなら本望」燕復帰の五十嵐亮太が語る想いと覚悟

今季加入したヤクルトで春季キャンプに参加中の五十嵐亮太【写真:荒川祐史】

「恩を返すところは結果。結果を出すために、チームのために何でもやる」

 沖縄の暖かな日差しの中で、今年40歳を迎えるベテランが汗を流していた。ブルペンで熱のこもった投球を行い、その表情は明るい。実戦登板も目前に迫っている。キャンプ序盤に右ふくらはぎの張りが出て、別メニューでの調整が続いていたものの、調整は順調に進んでいることは、その表情が物語っていた。

「体はだいぶいい。暖かいから体が動く。東京に帰ってからが怖いけどね。体は動くからこのまま状態を上げていけば、かなりいいところまでいくんじゃないのかな、と思っています」

 プロ22年目を迎える五十嵐亮太、39歳。昨オフ、2013年から在籍したソフトバンクを戦力外に。1998年にプロのキャリアをスタートさせ、12年間在籍した古巣ヤクルトが救いの手を差し伸べ、10年ぶりに復帰した。

「やっぱりこの年齢で、去年の成績も含めて、取ってもらったということは僕にとって感謝しなければいけないし、うれしい思いですね、このチームでやれるということは。ただね、恩を返すところは結果なんです。結果を出すために、チームのために、何でもやるぞっていう気持ちでいます」

 昨季はソフトバンクで23試合に登板して0勝1敗0セーブ2ホールド、防御率4.50。若手が育ってきたこともあり、世代交代の波に飲み込まれるように、日米通算860試合に登板してきた実績豊かな右腕でさえも非情通告を受けた。

 ただ、本人に現役を退くつもりはなかった。「続けるつもりではいたよ。ボールが投げられる身体だったし、腰の状態も良くなってきていたから。体をしっかりケアして、使いこなせば、どうにかなるかな、と」。昨年は春季キャンプ前に椎間板ヘルニアを発症して大幅に出遅れた。ただ、その腰も回復。身体が動くのに辞めたくない。五十嵐はそう思っていた。

「メキシコとかでもできるし、海外の独立リーグもあるし、いくつか僕の中で選択肢があった」。ハワイで自主トレを行っていたが、なかなかオファーはなかった。NPBが駄目なら、メキシカンリーグや米国の独立リーグでもいい。2010年から3年間メジャーで戦っていた経験もあり、国外での現役続行も視野に入れていた。

伊東編成部長からの電話は「どこかチームを紹介してくれるのかな」

 ハワイでの自主トレ中だった昨年末、ヤクルトの伊東昭光編成部長から電話で獲得の打診を受けた。一度、その電話を“無視”していたことは伝えられているが、その時の裏話も教えてくれた。「1度目の電話はシカトしちゃったね。気付いたんだよ、伊東さんからで電話鳴っているな、とは。『何だろうな?』と思ったんだけど、まあ間違い電話だろうと。置いといて昼寝していたら、またかかってきて。でも、『どこかチーム紹介してくれるのかな』と」。

 電話に出てみると、伝えられたのは獲得の打診だった。「超意外だった」と、五十嵐自身、ヤクルトからのオファーにはかなり驚いたという。それには前段階があったからだ。ソフトバンクを戦力外となり、現役続行を模索する中でヤクルトともコンタクトを取っていた。そこでは消極的な姿勢を聞かされ「ちょっと難しいというのも聞いていたし、国内は無理かなと思っていたんだよね」と振り返る。

 だからこそ、ヤクルトへの感謝の思いは尽きない。「普通に考えたら、こういう風にしてもらえる選手って少ないと思うので、本当に感謝しないといけないし、ありがたい気持ちでいっぱい。恩返しをするには結果しかない。怪我して今年で辞めることになるなら、それはそれで本望。なので、ヤクルトのために全力でやって、それで怪我するならそれでいいかな、と思っています」。ヤクルトのために、その身を捧げる覚悟でいる。

 40歳を目前にして、いまだに150キロ台のボールを投げ込む。防御率4.50と不振に終わった昨季は「いい時と悪い時の差が激しかった。やっぱり安定感がなかった」と振り返る。腰の怪我でキャンプをできず出遅れたことから、少なからず心の中に焦りが生じていたのも事実だ。

「去年はすぐ(1軍に)上がりたい、結果が出したいというところへの自分の気持ちが強かったので、客観的な判断ができていなかったかな、と過ぎてから思いましたね。ここ数年の中ではいい状態。キャンプを普通に過ごせているのと、新しく足りない部分を補えるだけの時間がある。去年良くなかったのをオフの間に冷静に判断できたかなと思うから」と語る表情には充実感が漂う。

 5月28日には40歳の誕生日を迎える。初登板から積み重ねてきた777試合連続救援登板はNPB記録となっている。戦力外通告から、古巣への10年ぶり復帰。再びマウンドに立つチャンスを得たベテランは、ヤクルトへの恩返しのためにその右腕を振る。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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