MotoGP:ドゥカティがセパンでテストした新技術の正体/ホンダ、ドゥカティの開発方針【後編】

 イギリス在住のフリーライター、マット・オクスリーのMotoGPコラム後編。2月6~8日にマレーシア・セパンで行われたMotoGPオフィシャルテストで見えたホンダとドゥカティの開発方針をオクスリーが分析する。

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 関係者の間で噂されている本命の説は、この仕掛けはホールショットデバイス(サスペンションを沈めたままにするパーツ)を制御するものということだ。ホールショットデバイスはすでにモトクロスやドラッグレースではよく見られている。この“技術アイデア”が「僕はプロのモトクロスライダーになる方がいい」と言っていたドヴィツィオーゾのアイデアかもしれないと誰に分かるだろう。彼はオフシーズン期間の大半をモトクロスレースを観たり、参加したりして過ごしているのだ。

 ホールショットデバイスは主にリヤショックを軽減するだろう。そのため、ライダーがレーススタート時にスロットルを開けると、サスペションを縮ませるためのエネルギーが消費されず、すべてのエンジンパワーがバイクを前に進めるために使われる。だがデメリットとして、バイクがよりウィリーしやすくなるという影響がある。MotoGPの共通アンチ・ウィリーシステムは極めて基礎的なものであるため、ホールショットデバイスは効率的なのだろう。

 このシステムはスタートして最初のコーナーに向かう時にバイクをより安定させる。毎回のギヤシフトの影響をさほど受けないからだ。通常、ホールショットデバイスはライダーがブレーキをかけると外れるが、どのように外れるかは不明だ。なぜなら、MotoGPではサスペンションコントロールは機械か油圧で行われなければならない。サスペンションに電子制御を使うことは禁じられているからだ。

 ドゥカティのライダーたちはセパンでは多くのスタート練習を行ったが、全員が非常に印象深く見えた。迅速なスタートはMotoGPではかつてないほどに重要になっている。今ではバイクの性能は同等であり、オーバーテイクはより難しくなっているため、もし最初のコーナーで集団の先頭に出られれば、大きな一歩を進めたことになるからだ。

■ドゥカティの新技術は他メーカーも使用するか

 セパンでドゥカティがデスモセディチGP19をピットレーンに送り出すたびに、ホンダ、スズキ、ヤマハのエンジニアたちがガレージから出てきて群れを作り、ダリーニャの最新“技術トリック”をチェックしようとしていた。これは目新しいことではない。ウイングレットのときも、トルクアームやその他のときも同じことが起きた。

 こうした大半のデバイスは、効率的にボルト締めされた装備であり、ウイングのように簡単にコピーが可能なことだ。

 もしトルクアームが継続して改善され、ドゥカティのライダーたちにブレーキング時のアドバンテージを与えるようなら、他のファクトリーチームが設計をコピーすることを避けられないのは確かだ。トルクアームの設計は1930年代、1960年代、1970年代のレースバイクから借用されたもので、それらのバイクには類似のトルクアームが使われていた。

 ドゥカティのホールショットデバイスの場合も同様だ。もし3月10日のカタールですべてのデスモセディチGPが最初のコーナーへ至る競争に勝ったとしたら、まだ設計に取り組んでいないライバルのファクトリーチームは、確実に作業を始めることになるだろう。

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