【MLB】新生マリナーズを支える言葉の力 スローガンに「改善」を選んだ指揮官の思い

「改善」と書かれたTシャツを手に持つマリナーズのケリー・ムンロ広報【写真:木崎英夫】

読書家サービス監督が愛読書から引用した言葉

 選手の顔ぶれが大幅に変わった今季のマリナーズ。チームのスローガンは、3月に控えた日本開催試合もあり、日本語で「改善」と打ち出されている。「日本に行く機会もあり、いろんな考え方を学ぶ良い機会だ。今の我々には必要なことでもある」と、選んだ理由を説明したスコット・サービス監督がさらに掘り下げたのは、野手組のキャンプインを翌日に控えた2月15日のことだった。

「より良い方向に邁進して行くためには変化が必要。プロセスが大事であり、日々の過程に集中することが望むような結果を生む」

 オフにカノ、ディアス、パクストンら昨季の躍進を支えた主力選手をトレードで放出。また昨季37本塁打のクルーズがFAでツインズに移籍するなど、チームは若手主体となり、まさに転換期を迎えている。この状況にサービス監督は、日本企業の躍進を支えたコンサルタント今井正明氏の名著の英訳版『KAIZEN』の数章からヒントを得たことも明かした。

 サービス監督は読書家である。

 聞けば、あらゆるスポーツのコーチング本や自己啓発本など、向上心をかきたてられる本が好みで、日本企業が国際競争で成功した経営ノウハウを日本的な概念で捉えた分厚い『KAIZEN』の読破を目指しているという。監督室にある机の上には、しっかり『KAIZEN』が置かれている。

NFLの名将ビンス・ロンバルディは「マイヒーロー」

 サービス監督はウィスコンシン州の出身で、NFLチャンピオンに4度輝いている同州の名門チーム、グリーンベイ・パッカーズの大ファンだ。そして1959年から68年の9年を指揮したヘッドコーチ、ビンス・ロンバルディをヒーローに挙げる。スーパーボウル第1回、第2回大会を制したロンバルディは多くの明言を遺したことでも知られている。

 いくつか挙げると……

「成功が努力よりも先にくる唯一の場所は、辞書だけである」

「勝敗は関係ない? だったら、なぜスコアをつけるんだ?」

「勝利は習慣になる。敗北も同様だ」

「リーダーは生まれつきのものではない。努力と懸命な働きで作り出されるものだ」

 ロンバルディの言葉には、人生のアフォリズム(格言)にもなるようなものが多い。その名将を「マイヒーロー」と呼ぶサービス監督がスローガンに挙げた2文字が正直、当初は安直にも思えたが、話を聞き終えると、指揮官の心を育んできた“智慧の塊”から抽出されているようにも感じられるから不思議だ。

 人は言葉によって生かされる――。

 勝負の世界に限らず、言葉の持つ力がどれだけのものかを改めて考えさせられた取材だった。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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