me too you too メディア、横行する性暴力

 性被害を告発する「#MeToo」(「私も」の意)運動の広がりから1年余り。日本でもこの間、財務官僚によるセクシュアルハラスメントなどが明るみに出たほか、神奈川新聞社でも昨年、男性幹部2人が性犯罪や重大なハラスメント行為により懲戒解雇された。依然として性暴力や性差別が横行する背景には何があるのか。まずは、私たちの足元であるメディア業界の実態を見つめる。

 昨年4月18日の深夜、東京都内のテレビ局は、詰め掛けた多数の報道陣で騒がしさを増していた。

 週刊新潮のスクープに端を発した福田淳一財務事務次官のセクハラ疑惑を巡り、テレビ朝日が同日夜のニュース番組「報道ステーション」で、被害者は同社の女性記者だったとして、間もなく会見を開くことを明らかにしたのだ。

 テレビ朝日は女性記者が1年半ほど前から数回、福田氏と会食、そのたびにセクハラ発言があったことを公表。記者は身を守るために録音したこと、また被害を受けて精神的に大きなショックを受けていることなどを説明した。

 インターネットで生中継された会見の様子を目にした鈴木京子さん(仮名)は、心が波立つのを抑えられなかった。

 テレビ局に15年ほど勤務し現在、番組ディレクターを担う鈴木さんにとって、テレビ朝日の女性記者が受けた被害は決して人ごとではなかった。

 「いろいろな思いがよみがえってきた。かつて同じようなハラスメント被害を受けてつらかったこと、一方で『見過ごすことが大人のルール』と思い、口をつぐんできてしまったこと。メディア業界の後輩たちのことを思うと、あのとき思考停止してしまった自分が恥ずかしく、後悔の念が押し寄せてきた」

 先輩から繰り返し下半身を触られた入社1年目、国会議員から肉体関係を求められた政治部記者時代…。胸の奥底にしまい込んでいた記憶が一気に押し寄せてきた。

■記者より「女」を求められ

 2000年代半ばにテレビ局で働き始めてから数年後、鈴木京子さん(仮名)は政治部に異動し、当時の主要政党を担当した。

 日中はなかなか向けられない話でも酒の席では雑談を交えながら聞き、情報を手にできる。他の記者と同じく、国会議員と飲みに行くことは鈴木さんにとっても取材の一環だった。

 相手は9割強が男性。当初は2人きりになることに不安を覚え、他社の記者と一緒に複数人で飲むことが多かったという。

 「政治部は、公務先などで複数の記者と議員を囲む取材が多い。他社と協力体制を築いておかないと、情報が回ってこなくて取材に参加できず、結果、ニュースを落とす、ということが起きかねない。男性記者の中には『女だからネタを取れる』と陰口を口にする人もいたので、恩を売るではないけれど、日頃から議員との飲み会に誘うなどしていたんです」

 ただ、仕事にも慣れ、警戒心が薄らぐと、一対一での飲み会が自然と増えた。鈴木さんはあくまでも取材という意識だったが、相手はそうではなかった。

 ある議員とバーで飲んでいたときだった。仕事の会話の途中で卑わいな話題を振られた。

 「彼氏とエッチしているのか」

 笑ってごまかすと、なおも続けて、こう言った。

 「俺とやらない? やらないと相性って分からないんだよ。一度やってみようよ」

 議員は既婚者だったが、冗談を言っているふうではなかった。バーから宿舎は近い。その場の雰囲気を壊すと、情報をもらえなくなるという怖さもあった。とりあえず、笑ってその場をやり過ごした。

 その後もしつこく食事に誘われたが、断り続けると、何事もなかったかのように声を掛けられなくなった。一方、新たに配属された女性記者を誘う議員の姿を何度も目にした。

 「それはそれで苦しかったです。女性同士で競わされている、というか…。宴席ではお酌して、何を言われても笑顔で、そういう女性になれないなら記者失格と言われているような気がして、すごくつらかった」

 仲間内では、女性記者がかつて政治家との懇親会に水着で参加したことが武勇伝のように語られていた。誰かに相談できるような環境はなかった。

福田淳一財務事務次官のセクハラを巡り、財務省の調査方法について撤回を求める弁護士たち=2018年4月19日、財務省前

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