マツダ、レストア事業1年余でようやく3台目 旧車ブームの陰、メーカーの「試行錯誤」

By 太田清

展示された初代ロードスター

 生産が終了して年月のたった車やバイクへの関心を持つ人が増え、いわゆる「旧車ブーム」が日本で高まっている。日本最大級のクラシックカー・バイクのモータショー「ノスタルジック 2デイズ」が23、24日の日程で横浜市みなとみらい地区のパシフィコ横浜で始まり、多くの観客が訪れ賑わいを見せた。 

高齢化 

 同ショーは今年で11回目。旧車の展示のみならず、パーツを含めた販売、旧車に関する最新の情報提供のほか旧車ファンによる情報交換の場ともなっている。2015年の約1万9000人から昨年は約2万7000人と観客数は増え続けており、イベントを楽しみにしている人も少なくない。盛り上がりの背景について、イベントを主催する芸文社広告部の広重克典さんは「電気自動車の普及やコンピューターの多用でハイテク化する最新の車に対し逆に趣味性を感じなくなった人たちが、クラシックカーに魅かれているほか、社会の高齢化に伴い若いころに憧れた車に関心を持つ人が増えた」ことを指摘する。 

ショー会場に並べられた名車たち

 昨年に続き今年も広島県に本社を置く大手自動車メーカー、マツダがブースを構え、1989年から販売を始め、今年誕生から30年を迎えた2シーター(2人乗り)のオープンスポーツカー「ロードスター」の初代モデルと最新型が展示され、多くの人が熱心に見入っていた。当時は世界的にこうしたタイプの量販車が珍しかっただけに、熱狂を持ってファンに迎えられ、初代だけで累計約43万台を生産、ロータリーエンジン車と並ぶマツダを代表する車となった。車に乗り込んだ愛知県の男性は「若いころに乗っていたが、シフトの感触、人車一体感の操縦感が忘れられない。いい車だった」と懐かしそうに語った。 

レストア事業 

 実はマツダは古い車を修理して再生するレストア事業に熱心で、一般のユーザーを対象にした事業と、社内の啓発と社員教育を目的とした車1台だけのレストアを行っている。後者のプロジェクトは「ワン マツダ レストアプロジェクト」と呼ばれ、社内にある古い車両を年に1台の割合でフルレストア。2020年の同社創立100周年に向け5台の車を完成させていく予定で、既にロータリーエンジンを積んだコスモスポーツなどを再生。現在は大衆車のファミリアをレストア中だ。 

 ユーザーを対象にした事業は2017年12月から始まったロードスターのレストア。ロードスターは現在4代目となるが、特に1993年のマイナーチェンジでエンジンを排気量1600ccから1800ccに拡大するまでの初代初期型は車両重量も軽く、コンパクトで小粋なスタイルも相まって「人車一体で操る喜び」を感じられる車として今も人気が高い。レストアの対象となるのはこの初代初期型で、生産中止から年月がたち部品在庫も尽き、修理が困難となってきたオーナーらの熱い期待を集め、同月に横浜で行われた説明会には数百人が参加、マスコミでも大きく報じられた。 

 昨年5月に最初の車を受け入れレストアを開始。当初計画では2か月で1台を修復する予定だったが最初のレストア車をオーナーに納車できたのは同年9月と大幅な遅れ。その後すぐに次の車を預かったが今年2月にようやく納車。現在ようやく3台目に取り掛かったところだ。 

順番待ち

 マツダ国内広報部の板垣友成さんは「お客様の要望を聞き、完全な状態で納車しようとすると想定以上の時間がかかってしまった。マツダにとりレストア事業は初めての試みで、試行錯誤の段階です」と計画当初のもくろみが外れたことを認めた。 

 ボンネットなどの交換、ソフトトップ張り替え、板金、全塗装などの基本メニューだけで250万円(税込み、以下同)。これに、インテリアやエンジン、エアコン、サスペンションなどのすべてのオプションを加えたフルレストアが485万円と高価にもかかわらず、既に約40人がレストアを申し込んでおり、車体に大きな修復歴があったり、ひどい錆があったりする車はお断りするとしているものの、いずれにしろ、すべての申し込みの修復をこなすには多くの時間が必要となることは明らかで「スピードアップのための態勢見直しも検討している」(板垣さん)という。 

 もともと、旧車のレストアは小規模な事業所が行うことが多く、日本では量販車メーカーが手掛けることは少ない。レストアの対象となる車はスポーツカーなど生産台数が少ない車が多い上、持ち込まれる車のコンディションは千差万別でレストアメニューの作成など細かい対応が必要となり、コストダウンのための大量生産に傾注している量販車メーカーにとり不得手な分野。さらに海外も含め百万台以上の車を生産するマツダのようなメーカーにとり、数十台単位のレストアは「手間がかかる割には儲けの少ない」ビジネスであることは間違ない。 

 それでも、マツダは同社を代表する名車とされるロードスターを後世に残し、なお2万人以上いるオーナーの期待に応えようとレストア以外にも、コストのかかる部品の復刻も手掛け、部品メーカーなどの協力でタイヤやホイールキャップ、フロアマットに至るまで約170の部品を新たに製造してきた。「試行錯誤」を乗り越えて、今後も高い志を保ち事業を続けてほしいと願う。 

初代ロードスターのエンジンルーム

ちゃんちゃんこ

 実はイベントで展示された赤い初代ロードスターは、東北地方在住の女性が発売開始当時、自らの還暦の祝いにちゃんちゃんこ代わりに購入。以後約30年乗り続け昨年になり、展示車として役立ってほしいとマツダに寄贈したもの。マツダもその意をくみ修復は最小限にするなどオリジナルの形をとどめてきたが、それでも塗装もきれいで長い年月が経過したことを思わせないコンディションで、元オーナーの愛情が感じられる。古い車は古いだけでなく、オーナーの人生も刻んでいる。 (共同通信=太田清)

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