ブルックリン美術館で「フリーダ・カーロ」展

多方面から考察する画家としての力量とその人生

©Yomitime Inc.

メキシコの画家フリーダ・カーロ(1907~54)のアートは、彼女の風貌とともに知られているといっていい。何しろ自画像が多い。濃い眉毛が眉間のところで繋がって、冠のごとく編み上げられたヘアスタイルや、派手な刺繍の民族衣装を纏った姿も独特だ。そんな彼女が遺したドレスやアクセサリー、化粧品や小物の類にフォーカスした本展は、「外見だけでは分からない」とタイトルされている。

Nickolas Muray, Frida on Bench, 1939 © Nickolas Muray Photo Archives

なにやら不可解な気持ちで出かけた展覧会だったが、これがなかなか多方面からの切り口による美術展となっていて、一階の4室に広がる展示には、写真、映像、図面、ファッション、さらに同館所蔵の古代メキシコの美術品まで登場する。肝心の絵画はといえば、300点を超える展示品の中でわずか11点。逆説めくが、だからこそ集中できる。これまで、カーロの壮絶な人生にばかり目がいっていた分、画家としての力量にあらためて目が開かれた思いだ。

自画像の中では、メキシコの先住民テワナ族の婚礼衣装かと思われる白とピンクのベールが広がる一点が印象的だ。レース部分の細やかな描写もさることながら、カーロの額に刻まれた夫ディエゴ・リベラの肖像や、髪飾りの草花から無数に伸びる蜘蛛の巣のごとき細い線など、この夫婦の複雑な関係を象徴しているようだ。と同時に、絵全体がマリア像のごとき宗教画の清廉さに溢れている。

Frida Kahlo, Self-Portrait as a Tehuana, 1943. © 2018 Banco de México Diego Rivera Frida Kahlo Museums Trust, Mexico, D.F. / Artists Rights Society (ARS), New York

南国の果物を描いた静物画もまた素晴らしい。バナナの中でもプランタノと呼ばれる、皮が厚くて赤みがかったひと房に込められた重厚感。「大地の果物」と題された一点は、海洋生物かと思しき奇妙な形の果物が皿に乗っている。1938年制作のこの静物画は、遠近法を無視した真上からの描写といい、背景の不気味な空といい、シュルレリスムの影響が見てとれる。

カーロは若くしてメキシコ壁画界の巨匠リベラと結婚し、20歳の年の差と彼の世界的な名声によって常に注目される存在だったが、画家としての評価が定まるのは、このリベラを訪ねてメキシコにやってきたシュルレアリスムの御大アンドレ・ブルトンに認められてからのことだ。パリやニューヨークで個展が開かれ、批評家筋の反応にはいまだ「リベラの妻」を強調する辛辣さが残っていたものの、ルーブル美術館に収蔵が決まり(メキシコの現代作家としては初)、肖像画を注文する固定客も現れた。

しかし、画家の人生は不自由な体との闘いだった。高校生のとき、通学バスが路面電車に衝突し、カーロは生死を分かつ重傷を負う。肋骨が折れ、鉄パイプが骨盤を貫通し、脊椎の一部が砕けた。その後何度となく手術が繰り返されたが、この脊椎の損傷は、生涯、カーロを苦しめることになった。

本展の後半に並ぶのは、医療用のコルセットだ。革ベルトが交差する金属製もあれば、カーロ手描きの絵柄で装飾された石膏製もある。さらに目を奪われたのは、繻子の地で作られた華奢なブーツだ。ヒールの高さが違う。そう、カーロは幼少時に患った小児麻痺がもとで右足の成長が遅れ、後年、膝から下を切断している。

Customized silk ankle boots © Diego Rivera and Frida Kahlo Archives, Banco de México, Fiduciary of the Trust of the Diego Rivera and Frida Kahlo Museums. Photo by Javier Hinojosa, courtesy of V&A Publishing

ガラスケースを彩るのは、各地のインディオたちの手刺繍によるカーロ愛用のドレスだ。欧米のモダンなアート界で活躍するカーロにとって、一見、田舎臭くもあるこれらドレスの着用には、革命後のメキシコの再生や固有の文化に対する熱い思いがあったのだろう。同時にまた、幅広のブラウスは、術後のコルセット装着を隠すためであり、ゆったりとしたロングスカートは、麻痺の残る右足を隠すためでもあったのだ。

展示の大半を占めるのは、ティナ・モドッティ、マヌエル・アルバレス・ブラボ、エドワード・ウェストンら内外の著名写真家が捉えたカーロのポートレートである。モデル然としたカーロの姿は、どれも大輪の花のごとく華やかだ。宝飾品の中には、銀紙と鈴で作った手製の髪飾りも登場する。殉教聖人の奇跡を描いたお札のような宗教画の数々は、リベラと一緒に集めたものだ。すでに伝記や映画の中で繰り返し語られたひとりの画家の熱い生涯が、パノラマのように展開する。一味違うフリーダ・カーロ展である。

藤森愛実:美術ライター(ニューヨーク在住)

Frida Kahlo: Appearances Can Be Deceiving
■5月12日(日)まで
■会場:Brooklyn Museum200 Eastern Parkway, Brooklyn
http://www.brooklynmuseum.org

よみタイム 2019年2月22日号 掲載