プロ10年目、27歳の鷹育成左腕は覚醒なるか? 肩&肘の手術乗り越え「今が楽しい」

ソフトバンク・川原弘之【写真:福谷佑介】

20日の紅白戦で最速151キロを記録「まだ出そうな気はします」

 いま、宮崎でキャンプを行うソフトバンクで、にわかに注目を集めている左腕がいる。鳴り物入りで入団したルーキーでもなければ、若き新星でもない。今季でプロ10年目。シーズン中には28歳になる育成選手である。

 川原弘之、27歳。2009年のドラフト2位で福岡大大濠高から入団した大型左腕だ。同期入団のドラフト1位は今宮健太。他球団の高卒では筒香嘉智や菊池雄星が指名された世代。それだけで、長く雌伏の時が続いていたことが良く分かるだろう。

 プロ3年目の2012年には2軍戦で、当時の日本人左腕最速となる158キロを記録し、一躍脚光を浴びた。だが、プロ生活の多くは怪我との戦いだった。2015年の開幕前には左肩の手術を受け、さらに、シーズン終了後には左肘の靱帯再建手術、通称トミー・ジョン手術も受けた。2016年からは育成契約に。長く、険しいリハビリを送ってきた。

 そんな怪我に苦しみ続けられてきた川原が、今春のキャンプでアピールを続けている。B組での状態の良さが評価され、20日のA組紅白戦に抜擢。1イニングを三者凡退に切っただけでなく、3人目の打者となった川島慶三に対して3球目、4球目と150キロをマーク。さらに5球目には151キロを記録し、見ているものに衝撃を与えた。

 この時を川原はこう振り返る。「B組で投げている感じをそのまま出すことができて、それが良かったですね。151(キロ)のときは綺麗に投げられたと思います」。スリークォーター気味の腕の位置からで角度があり、さらに150キロオーバーとなれば、その威力は計り知れない。そして、まだ2月。キャンプ真っ只中で体には疲労も残るだけに「まだ出るかもしれないですね、出そうな気はします」と言うのだから、楽しみは尽きない。

怪我との戦いだったプロ生活「今、楽しいです。久しぶりです、この感覚」

 その速さも魅力的だが、何より今の川原は楽しそうだ。長らく故障に苦しめられてきた。野球選手にとって、投手にとって“命”とも言える肩と肘、双方にメスを入れた。苦闘の日々を乗り越えて、いま何事もなく思うようなボールを投げられていることに喜びを感じている。

「今、楽しいですね。久しぶりです、この感覚」と言い、頬を緩める表情は優しい。昨春のキャンプでも投げられてはいた。だが、心の中には怪我への不安が拭えなかった。「去年の今頃は肩痛くならないかな……という不安と勝負していたんですけど、今は全然そういうのがなくて」。

 昨季1年間、大きな怪我がなくシーズンを投げ抜けたことで、徐々に不安を払拭できた。だからこそ、いま生き生きと野球が出来ている。「肩に不安がないということだけで楽しいです。こんなこと手術してからは、今が初めてじゃないですかね。何かしら肩大丈夫かな、肘大丈夫かな、と思っていましたから」と振り返る。怪我で苦しんでいた時期は、毎朝目覚めると、まず左肩の状態を確認した。それが1日の始まりだった。ただ、それも今では「そんなに気にならなくなりましたね」という。

 川原は24日に行われるB組の練習試合・斗山ベアーズ戦に登板する予定。再びA組の対外試合でも登板が見込まれている。「野球をできているんで、それがいいですね」と笑った後、川原は言った。「10年目で、やっとですね」。苦闘の日々を乗り越え、ついに芽吹きの時を迎えるか。プロ10年目、27歳の育成選手、川原弘之。支配下復帰、そして1軍の舞台を目指す戦いは、ここから本番だ。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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