楽天、本拠地「完全キャッシュレス化」のワケ 昨年は「約7割が現金決済」も…

楽天が本拠地を「決済完全キャッシュレス化」にすると発表【写真提供:(C)Rakuten Eagles】

「日本のキャッシュレス化を牽引しよう!」、楽天が決断した理由は…

 1月10日、楽天は本拠地の楽天生命パーク宮城について、プロ野球では世界初となる「決済完全キャッシュレス化」を2019シーズン開幕から行うと発表した。これはスタジアム内のチケット、飲食グッズなどの販売において現金決済を取りやめ、楽天グループの各種決済サービスや、クレジットカード、デビットカードによるキャッシュレス決済のみを扱うというものだ。

 時を同じくして楽天グループが運営するサッカーJ1ヴィッセル神戸も同様の取り組みを行うと発表し、プロ野球ファン、サッカーファン問わずネット上で話題に。一時「キャッシュレススタジアム」がトレンドワードとなった。本拠地開幕戦となる4月2日の楽天-日本ハム戦まではあと36日。現状はどうなっているのだろうか。楽天野球団経営企画室の江副翠氏に話を聞いた。

――いつごろから「完全キャッシュレス化」は考えていましたか?

「楽天野球団は、プロ野球チーム『東北楽天ゴールデンイーグルス』の運営を行うとともに、楽天グループの一員として、東北から新しい取り組みを行ってきました。キャッシュレス決済事業というのは楽天グループとしても非常に力を入れている事業の一つであり、2006年3月からはスタジアムでの支払いに『楽天Edy』を、昨年7月からは売り子さんがQRコードを首からぶらさげ、『楽天ペイ(アプリ決済)』を使ったお買い物ができるようにしたりしています。

 実際に『完全キャッシュレス』という話が出たのは昨年の夏から秋くらいでした。昨シーズンにテストトライアルも実施しながら、年末にかけて『シーズン中に段階的に進める?』『数年かけて進める?』といった議論をして、最終的に『キャッシュレス決済のメリットを最大限活かすために完全にやろう!』となりました。

 現在はお客様へのサポートやホスピタリティを中心に議論しているところです。ここから開幕までは、各課題ごとに検討してきた考えを全体的にもう一度見直し、本当にお客様がスタジアムに到着されて、チケットを買って、ゲートに入って……、という中でご不便がないか、告知は足りているか、サポートスタッフは足りているか、開幕に向けて体制を詰めていくフェーズかと思います。とはいえ、どんなに予測をしていても、きっと想定を超える混乱、思ってもみなかった事態が起きる可能性もございます。最後の最後まで検討を進めるとともに、実際にご来場されるお客様の声を真摯に受け止めながら、開幕後も改善を続けていきたいと考えています」

――1月10日に発表されて話題にもなりましたが、球団への反応はいかがでした?

「足元で国が進めるキャッシュレス化の方向性や世界の流れの中で、『そういう流れだよね。やっぱりそうなるよね』といった予想外に良い反応も見られました。実際にお問い合わせがあった件数やご意見は予想よりは少なく、ファンの方からは『キャッシュレスになるなら自分たちはどういった準備を開幕に向けてすればいいのだろう?』といった前向きな問い合わせも多かったです。

 一方、『高齢者や子供はどうするのか?』や『ビジターファンはどうするのか?』といった非常に厳しいご意見も多くありました」

「野球、スタジアムを楽しむ時間を増やす」

――昨シーズン時点でのキャッシュレス決済の比率はどれくらいですか?

「金額ベースで約70%が現金、約20%が楽天Edy、5%前後がクレジットカード。残り5%は楽天ペイや楽天スーパーポイント、商品券等となります」

――約7割の現金決済をキャッシュレスに移行させるんですね。

「はい。ただ楽天Edyが約20%を占めているというのは仙台駅にあるグッズショップと比較しても、高い比率です。2006シーズンからスタジアムに楽天Edyを導入しており、いろいろな施策を打ってきたので、昔からなじみのあるファンの方には『お得だよ』『便利だよ』というのは徐々に広まっていたのだと思います。ただ、7割の現金決済を一気に変える話なので、繰り返しにはなりますが、シーズンが開幕すると我々が想定している以上のことが起きると認識しており、お客様の声をしっかりと受け止めて対応していきたいです」

――サポート体制はどうされますか?

「中学生以下でチケットをお持ちのお子様にはイーグルスキッズEdyカードをシーズン通じて無料でプレゼントする予定の他、キャッシュレス決済でのお買い物の仕方などをレクチャーする冊子の配布なども検討をしています。修学旅行のお子様、学校の授業の一環でいらっしゃっていただくお子様には、少額ではあるもののチャージがすでにされたEdyカードをプレゼントさせていただくことで、ジェット風船やドリンクなどのお買い物体験をしていただくような企画も予定しています。

 その他、楽天Edyのチャージ機を開幕時点で100台規模でスタジアムに設置したり、Edyカードのレンタルサービスを実施したりといった、現金をお持ちのお客様にご不便をなるべくおかけしないような対応や、1万円以下のクレジットカード決済はサインレスに、といったよりキャッシュレスが便利に感じていただけるような対応などを様々考えています。また、楽天キャッシュレスデスクというサポートデスクも5か所設置し、お困りごとを解決するお手伝いをできるようにします」

――そういったことを通じて実行する「キャッシュレス化」。そのメリットはどういったものですか?

「現金のやり取りをなくすことで、会計時間が短くなる、お釣りの数え間違いがなくなるといったことはあると思います。また、イニング間にお買い物に行く際に小銭を持ち歩く必要がなくなり身軽にお買い物にいける、といったこともあると思います。会計の待ち時間が徐々に改善される中で、野球そのもの、スタジアムそのものをもっと楽しめる時間が増えるといいなとも思っています」

30人体制でヴィッセル神戸の3・2開幕戦を視察へ

――キャッシュレスの次のステップはどう考えていますか?

「まずはキャッシュレス決済になっても、お客様が不自由なく観戦を楽しんでいただける環境を整えることが大事です。その前提の上で、キャッシュレス決済にすること自体はファーストステップにすぎないと思っています。楽天グループや世界のさまざまなテクノロジーを使いながら、また、顧客データを活用しながら、スタッフのサービス向上や来場される皆さまへのホスピタリティ向上につなげるような新しいワクワクする観戦体験をご提供し、最終的にスマートなスタジアムになっていくことを目指しています」

――同じく「キャッシュレス化」に取り組むヴィッセル神戸は3月2日にホーム開幕を迎えます。

「ヴィッセル神戸の開幕には、楽天イーグルスからも、球団職員が30人規模で行く予定です。キャッシュレスデスク、グッズ、飲食……と各部署から人を派遣して、実際に現場でサポートをしながら、お客様の声を受け止め、課題を見つけて、改善できるようにしていきたいと思っています。その他、楽天のペイメント各事業のスタッフもサポートに入る予定です」

――最後にファンの皆様へ伝えたいことを教えてください。

「残りの時間で想定し得ることに対しては我々も対策をして開幕を迎えたいと思っています。ただ、想定し得ない事態がきっと起きて、もしかしたらお客様にご不便をかけることもあるかもしれません。そういった様々なお客様の声を真摯に伺いながら、一つ一つ解決して完全キャッシュレススタジアムをスムーズに実現させていきたいと思います。

 中長期的な目標で球団社長の立花陽三も申しているのですが、楽天イーグルスのファンの方が他の球場に行かれたときに『この球場は不便だな、楽天生命パーク宮城は便利だな、おもしろいな』と逆に誇りに思ってもらえるところまで行けるように、2019年は一歩一歩課題を解決していきたいです」(「パ・リーグ インサイト」石橋達之)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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