『岬の兄妹』 際どい題材に真正面から挑む

(C) SHINZO KATAYAMA

 ポン・ジュノや山下敦弘といった映画作家の助監督として経験を積んだ片山慎三の長編初監督作だ。片足の不自由な兄と自閉症の妹。ハンディを背負い寄り添って生きる二人が、生活に窮し、偶然妹が関係を持った男からお金を貰ったことをきっかけに、売春へと手を染める…。

 本作を観た師匠ポン・ジュノが「イカれた映画監督!」と称えるように、際どい題材に真正面から挑んだ勇気ある作品だが、脚本・演技・演出…どれを取ってもブレることなく自信に満ちあふれた印象を受ける。海と坂のあるロケ地、段ボールを使った室内の光の操作、細やかな底辺の日常描写とその中で描かれる季節の移ろい…どうすれば“映画”になるかを心得た監督だ。顔や身体のパーツにまで寄ったクローズアップから大胆なロングショット、トラックバックの活用まで被写体との距離の測り方もうまい。だから画面は常に端正で緻密に計算されているのに、あたかもドキュメンタリーのような生々しい空気を醸す。主演の二人も、作り込みが必要な役柄にもかかわらず演技はナチュラルだ。

 でも、何よりユーモアがあるから、気づけば法を犯している兄妹に肩入れし、応援せずにはいられなくなっているのだ。その上、観る者に解釈を委ねる(だが、間違いなく希望に満ちた)素晴らしいラスト! ただ者ではない、スゴイ新人監督が現れた。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:片山慎三

出演:松浦祐也、和田光沙

3月1日(金)から全国順次公開

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