長崎県地域定着支援センター10年 裏切られても「何度でも」 更生への「伴走者」に

 1月で開設10年の節目を迎えた「長崎県地域生活定着支援センター」(長崎諫早市)。全国に先駆け、罪を繰り返す障害者や高齢者を福祉につなぎ、更生を支援する「橋渡し役」を務めてきた。支援対象者の再犯者の少なさは関係者を驚かせるが、一部でも再犯に至る人がいる限り、センターは手を差し伸べ続ける。
 長崎市の男性(75)は、昨年11月に長崎刑務所を出所し、同市内の福祉施設で暮らしている。2015年11月、コンビニで酒1本を盗んだ罪で懲役2年10月の実刑判決を受け服役。出所後、センターが施設入所の手続きをしたが、男性が支援を受けるのは今回が初めてではなかった。男性は何度もセンターを「裏切ってきた」。
 男性は20歳すぎから還暦前まで左官の仕事をしていた。妻も子どももいない。寂しさを紛らしてくれたのが酒だった。同居の両親が亡くなって酒量が増え、仕事に出るのがおっくうに。やがて金が底を突いて万引を繰り返すようになり、57歳の時、初めて刑務所に入った。出所しても頼れる身内はいない。「どうにでもなれ」とやけになり、窃盗事件を重ねた。
 11年春、4回目の刑務所出所の際、同センターが「特別調整」で住居などを手配。これは受刑者の中で帰住先がなく、かつ高齢や障害といった問題を抱えた人を対象に、関係機関が連携して福祉的な支援の手続きをする制度だ。
 「見ず知らずの人間の世話をしてくれるなんて」。男性の胸に感謝の気持ちが込み上げた。だが、その思いは長続きしなかった。
 翌12年、また事件を起こし、刑務所に再入所。14年6月に出所し、再びセンターの支援を受けながら社会復帰への道を歩み始めたものの、15年11月、またもやコンビニで酒を盗んで刑務所に逆戻りした。男性は「(センターを)まだ本気で信じていなかった。どうせ自分なんて、と思っていた」と振り返る。
 昨年11月。刑期を終え、刑務所の塀の外に出ると、今度もセンターの職員が迎えに来ていた。裏切っても裏切っても、寄り添ってくれる姿を見て、男性は心を揺さぶられた。「この人たちは本気で俺のことを信じてくれていると分かった。この人たちのためにちゃんとしようと思った」
 男性の更生は道半ば。また挫折してしまうかもしれない。「でも」と同センターの伊豆丸剛史所長(43)は言う。
 「彼が何度つまずいても向き合っていく。更生は一朝一夕には果たせないし、新しく真人間によみがえらせることではない。生活苦の中で罪を繰り返してきた人たちが、それまで得られなかった愛情や教育、就労の機会などを獲得し直すことで、ようやく果たせるものなのだと思う。センターは、いつまでも彼らに寄り添う『伴走者』でありたい」

何度もセンターを裏切ってきた男性。今は「もう罪は犯さない」と思う=長崎市内の福祉施設

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