新城幸也選手(自転車競技)

新城幸也選手(自転車競技)

勝利へと続く道へ──。

自転車競技の“マラソン”と言われるロードレース。東京五輪でのコースの高低差は富士山並みと超過酷だ。欧州で戦う日本のエース・新城幸也は、過酷な道の先にあるメダルを見据えている。

初めてロードバイクに乗ったのは小学校5年生のころだった。

「父が趣味でロードバイクに乗っていたので、いきなりロードバイクを与えられたんです。だから、塾に行くのも、ハンドボールの部活に行くのもロードバイク。僕にとってロードバイクはただの移動手段でした(笑)。ロードレースを本格的に始めるきっかけになったのは18歳、大学受験に失敗して3カ月ぐらい自転車を乗りにフランスに行ってみようかと思ったんです。地元のクラブチームに入ってレースにも出場しましたが、最初は落車、パンクで完走できなかった。5つ目か6つ目のレースで5位か6位に入って、イケるんじゃないかと思いましたね」

そのころは大変だったのでは、と聞くと明るく笑い飛ばした。

「自分がペダルを漕いだ分だけ強くなれるのがロードレース。練習した分だけ成績が出る。目に見えて分かるんです。若いころは寝て起きたら強くなっている感じがして、それが楽しかった。僕は甘いものが好きなんですが、昼は練習中にパン屋さんに寄ってケーキを食べるんです。またあのケーキを食べたいからあの店に行こう、とか(笑)。今も例えばチームから伝えられたレースへの出場のために、タダでオーストラリアにも行ける。仕事とは思ってないです(笑)」

東京五輪が決まった時は?

「ただただうれしかったですね。僕は常にアウェーで戦っているので、フランス語は分かりますが、ベルギーやイタリア、スペインのレースだと何を話しているのか分からない(笑)。それが日本で、みんなが見ている中を走るわけですから。プラス僕はまだ世界のトップでやっている。そんな選手ってなかなかいないと思うんです。こんな運のいい話はないですよ。ただ、今でも自分が日本で走る姿が想像できない。ホームで五輪を走る、違和感しかないです(笑)」

ただ、出場枠の条件で日本からの出場選手が少ない分、サポートも少ない。

「確かに5、6人の選手がエントリーするヨーロッパ勢よりは不利。でも、僕らにはどうしようもできないことなので、自分のために全てを走る、ということです。無駄な体力を使わずに最後まで走り、他の国のエースが全力を出すポイントで自分も全力を出すようにする。そんな戦い方ばかりなのでもう慣れました(笑)。過去に世界選手権で9位に入ったことはありますし、五輪なりの戦い方、走り方というのは十分に分かっています」

さらに心配なのが4865mも登るという過酷なコースだ。

「登りに強い選手が残るレースになると思います。僕は1~2kmの短い登りが得意なんですが、最後の4kmは激坂が待っている。そこを登れるぐらいに体を変えていかなければいけないと思っています。コースが決まった以上は、自分がそのコースに合うコンディション、体を作るだけ。あとは暑さ。ヨーロッパの選手に湿気のある日本の暑さは経験がないのでこたえると思います。そういう意味では僕にとってチャンス。ただ、僕もここ10年ぐらい日本の夏の暑さは経験していませんが(笑)。今年はチャンスがあれば、8月上旬に1度帰国して暑さを体験できればと思っています。あと開催日の7月25日はツール・ド・フランスが終わって1週間ほどしかないんです。正直、五輪でメダルを狙う選手はツールを走らない方がいいですね。でも、僕は欲張りなのでツールも出て、五輪にも出ます(笑)」

日本ではあまりなじみのないロードレースだが楽しみ方は?

「まずは生で見てもらいたいです。もちろんテレビだとスタートからゴールまで見られるし、解説もしてくれるので分かりやすい。でも、自転車ってこんなに速いんだよ、というところも見て欲しいんです。僕ら選手はおそらく7時間ぐらいは走っていると思うので、皆さんは生で見てもらって『登りでもこんなに速く走れるんだ』と感じたら、すぐに家に帰ってテレビで残りを見る(笑)。それができるのがロードレースのいいところです」

3月からは海外で「レース三昧」。そして7月のツール・ド・フランス出場が最大の目標だ。

「あとは9月末にヨークシャーで世界選手権があるのですが、そこのコースが僕に合っているんです。来年の5月ごろまでの獲得ポイントで東京五輪の出場が決まるので、チームの仕事をこなしながらポイントも取っていきたいですね。東京五輪のコース対応のため、坂を登れる体に改造していくという目標もあります。ロードレースは東京五輪で最初の決勝競技。メダルを獲って皆さんにロードレースを知ってもらいたいと思います」

【TVガイドからQuestion】

Q1 印象に残っているスポーツ名場面を教えて!

モータースポーツはよく見るのですが、フランスの自宅がル・マンに近いこともあって「ル・マン24時間耐久レース」は毎年見てるんです。昨年トヨタが中嶋一貴選手らで優勝したレースは、僕の中でも特に記憶に残っています。

Q2 好きなTV番組を教えて!

シーズン中は練習が終わると、夜はお酒も飲まないので、寝るまでの時間はWEBで日本のTV番組をよく見ています。石原さとみさんの「校閲ガール」、「今日から俺は!!」は面白かったです。「痛快TVスカッとジャパン」も好き(笑)。

Q3 “2020”にちなんで、“20”代でできなくて、今後挑戦したいことを教えて!

大学に行くことです。指導者になった時に、自分なりに得た感覚を人に伝えるためには勉強が必要だと。そういう意味では、指導法などの勉強をしたいです。スポーツは若い時にしかできませんが、大学にはこれからでも行けるので。

自転車競技とは?


自転車競技の中でも、ロードレースは主に舗装された公道を自転車で走り、ゴールの順番や所要時間を競う競技。走行距離は数km程度から長距離のレースでは300km弱に及ぶものも。東京五輪は東京・武蔵野の森公園をスタートし、富士スピードウェイでゴールする244km。男子では獲得標高差は4865m。東京五輪含め基本的には個人競技だが、上級レースになると6~8名のチームが1人のエースを勝たせるために各々が役割をこなす戦術も見られる。

【プロフィール】


新城幸也(あらしろ ゆきや)
1984年9月22日沖縄生まれ。乙女座。O型。

▶︎高校卒業後、フランスへ自転車留学。「初めて思い切り漕いだ」自転車のスピード感と「集団の中で走る駆け引き」に魅了され本格的に自転車競技を始める。
▶︎フランスのUC(I 国際自転車競技連合)プロチームと契約、’09年、ツール・ド・フランスに初出場し完走。以後’17年まで7回の出場を果たす。’10年ジロ・デ・イタリア、’15年ブエルタ・ア・エスパーニャにも出場し、日本人初の全グランツール完走選手となる。
▶︎’10 年世界選手権エリート男子ロードで日本人最高の9位に。
▶︎五輪は’12年ロンドン、’16年リオデジャネイロに出場。
▶︎思い出深い大会は「目標にしてきて初めて出場したツール・ド・フランス。多くの一流選手たちがベストパフォーマンスで走る大会、どのレースよりもスピードを体感しました」

【プレゼント】


サイン入り生写真を1名様にプレゼント!

ハガキでの応募方法は「TVガイド」3/8号(P118)をご覧ください。
「TVガイド」の購入はコチラ→https://zasshi.tv/category/TVG

取材・文/田村友二 撮影/中村彰男、砂田弓弦(アフロ)

© 株式会社東京ニュース通信社