1万円台DAPに“キラーモデル”登場! HIDIZS「AP80」の完成度はビギナーもマニアも唸らせる

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HIDIZSのハイレゾ対応DAP「AP80」を海上忍氏がレビュー。実売で1.6万円を切る価格ながらESS製DACを搭載するなど音質にも注力し、コンパクトさと操作性も両立させたというAP80の実力を検証していく。

HIDIZS「AP80」 ¥OPEN(予想実売価格15,750円前後、ステンレス筐体採用の<SS>のみ25,750円前後)

■HIDIZSの“キラーモデル”が国内正式登場

ポータブルオーディオファンにとっての必携アイテムといえば、やはりヘッドホン/イヤホンと「DAP」(デジタルオーディオプレーヤー)。再生スタイルでいえば、スマートフォンにUSB-DAC/ヘッドホンアンプという重量級の組み合わせもあるし、スマートウォッチにBluetoothイヤホンという超軽量級もあるが、ほどほどの大きさで大量の楽曲を持ち運びでき長時間再生が可能、という音楽再生専用のDAPが基本であることは間違いない。

それだけに各社がしのぎを削る分野だが、なかでも近年において意気軒昂なのは中国のメーカー。特に広東省・深センを中心とした巨大な電子機器集積地は、最新の技術を用いて迅速に製品化することに地の利があるからだろう。ハードウェアのみならず組み込みソフト開発を得意とする企業も多く、DAPの開発にはまさに打ってつけだ。

「AP80」(ブラック)

HIDIZS(ハイディズ)が本拠を置く東莞(トウカン)は深圳に隣接しており、やはり多数の先端企業が本拠を置く。ポータブルオーディオに強みを持つオーディオメーカーである同社は、2009年に創業。数年にわたり世界のHi-Fiオーディオを研究し、2014年に初のポータブルプレイヤー「AP100」をCESで発表、2017年にはより小型の「AP60」、AP100後継となる「AP200」を相次ぎ投入し、DAPカテゴリでの存在感を高めてきた。

ここに取りあげる「AP80」(関連ニュース)は、そのAP60の小型路線をさらに突き詰めた製品。AP60と比較すると、重量は50gから70gへと増えたものの、容積は幅42×高さ75×厚さ14mmから幅49×高さ58×厚さ13mmへと減少している。アルミ合金製ボディはアルマイト処理され質感高く、ガラスコートされた背面の雰囲気もいい。ボディカラーはブラック/グレー/レッド/バイオレット/ブルーの5色、ステンレススチール製の特別モデル「AP80SS」も用意される。

こちらは「AP80」のグレイ色モデル

操作性はタッチパネル式ディスプレイを採用したことにより、AP60から一変。AP60のディスプレイはタッチ操作に非対応(画面の下半分がタッチ式ボタンになっていた。後継のAP-60 IIは物理ボタンに変更)だったが、AP80ではディスプレイ全体がタッチ操作に対応したことで直感的なUIを実現している。側面には3つの物理ボタンとALPS社製ボリュームホイールを配置、スピーディーな操作にも配慮した。

側面には3つの物理ボタンとALPS社製ボリュームホイールを配置
AP80の背面部。入門機ながら質感の高い仕上げも特徴といえる
左サイドにはmicroSDカードスロットを搭載
USB端子はtype Cを備える。ヘッドホン出力は3.5mmだ

バッテリー容量は800mAhで、最大15時間の連続再生と35日以上のスタンバイを可能とする。楽曲保存用のストレージは内蔵しないが、最大1TBのmicroSDカードがサポートされるため、容量で不満を感じることはまずないだろう。

肝心の音に関する設計も刷新された。DAPにおいて音質の要となるDAC部には、ESS Technologyの32bit SoC「ES9218P」を採用。クアッドDACと2.0Vrmsのヘッドホンアンプを統合したモバイル端末向けチップという位置付けで、ノイズ成分のコントロールに長けたHyperStream IIテクノロジーにも対応。優れたS/NとTHD+Nを特徴としている。PCMは最大384kHz/32bit、DSD(PCM変換)は2.8MHzおよび5.6MHzと、ハイレゾ再生も抜かりない。

Bluetoothオーディオでは、コーデックとしてSBC/AACにくわえ、aptXとLDACもサポート。スマートフォンアプリ「HiBy Music」からBluetooth経由でAP80をリモートコントロールできる機能「HiBy Link」にも対応する。標準装備のアプリ「ラジオ」を利用すればFM放送を受信できるなど、いろいろなシーンで楽しめそうだ。

直感的な操作を支える洗練されたソフトウェア

■直感的な操作を支える洗練されたソフトウェア

側面のホイールを長押しすると電源オン、6秒ほどでシステムが起動する。画面に表示された最大4つのアイコンをタップするとアプリが起動され、各アプリの画面左上の「<」をタップで終了(ホーム画面に戻る)となる。スマートフォン的な操作感であり、迷うことはないだろう。

手のひらにちょうどよく収まるサイズ。一方で小さすぎず、タッチ操作も行いやすい

音楽再生については「プレーヤー」アプリで行う。再生する楽曲は曲/アルバム/アーティスト/ジャンル/フォーマット/フォルダから選択可能。画面を左フリック、または画面上段右のアイコンをクリックすると再生画面が表示できる。

その直感的な操作性をアシストするのが、側面のボリュームホイールだ。クリッカブルな構造で押すたびにスリープをON/OFFでき、回転させると画面にボリュームコントローラが現れる。これを上下方向へすばやくドラッグ/フリックすると、瞬時にボリュームを大きく上げ下げできるので、曲間で録音レベルが変動するときなどに重宝する。

ホーム画面には「プレーヤー」をはじめ各アプリが並ぶ
「プレーヤー」の画面。曲/アルバムごとにジャケット画像も表示

また、いずれの状態からも画面下部を上方向にフリックすると、iOSやAndroid OSでいうところの“コントロールセンター”が表示され、音量調整や再生/曲送り、ゲイン切り替えやUSB-DACモードへの切り替え、BluetoothのON/OFFなどを手早く操作できる仕組みだ。

再生中の楽曲を表示する画面
画面下部を上にフリックすると操作パネルが表示される

これらの機能を支えるのはシステムソフトウェア、具体的には「HiBy OS」だ。開発元のHiBy(ハイバイ)は設立から10年以上の経験を持つ企業で、オーディオに関連したソフトウェア開発に強みを持つ。擁する技術者は30名以上、FPGAベースのオーディオプロセッサなど豊富な開発実績を誇り、所有する知的財産も数多い。同じ資本グループに属すHIDIZSの他にも、複数のDAPメーカーがHiBy OSを採用している。

HiBy OSはLinuxベースのオーディオに特化したOSということ以外、詳細は明らかにされていない。しかし、ALSA(Advanced Linux Sound Architecture)という低レイテンシのサウンドアーキテクチャを備え、安定したUSB Audio関連ドライバを持ち、多様なCPU/SoCで動作する。

パラメトリックイコライザーと音場調整に基づく複数のアルゴリズムで設計された音質調整機能「Mage Sound 8-Ball Tuning」(MSEB)など独自の音質関連機能は、このLinuxおよびHiBy OSという確とした基盤あってこそといえる。

■エントリークラスDAPとは思えない透徹した空気感

AP80の試聴には、主にFinalのイヤホン「E2000」を使用した。E2000は、φ6.4mmダイナミック型ドライバーユニット1基というベーシックなカナル型だ。エントリークラスの製品ながら立ち上がり/立ち下がりは鋭く、高い解像感と見通しのいい音場で聴かせてくれる。フラット指向のサウンドはESS製DACと相性がよさそうなうえ、アルマイト加工されたアルミ切削ハウジングの質感がAP80にマッチするため敢えて選択した。

同価格帯のDAPの中でも抜きん出た音質

一聴して感じるのは、透徹した空気感。アコースティックギターの開放弦を掻き鳴らしても濁らず、音ひとつひとつの輪郭を正確にトレースする。ピアノのアタックもシンバルクラッシュも迅速に収束し、不自然な余韻を残さない。過渡特性とノイズ/歪み感の少なさは、この価格帯のDAPでは明らかに抜きん出ている。

「AP80」は、エントリークラスとは思えない透徹としたサウンドを聴かせてくれる

サウンドステージの広さも印象的だ。再生を始めるやいなや音場がスッと眼前に広がり、ボーカルや楽器の立ち位置も手に取るよう。もちろん利用するイヤホンの特性に大きく影響される部分だが、シングルエンド接続らしからぬ左右のセパレーションは、AP80の設計に負うところが大のはず。

HiBy OSならでは特徴を挙げるとすると、キビキビとした操作性も捨てがたいが、やはり「MBES」になるだろう。プレイヤーアプリの左上にあるHIDIZSロゴをタップすると現れるサイドメニューにある「MBES」をタップすると、「Overall Temperature」や「Bass extension」など10種類のスライダーが現れ、左右に動かすとリニアに音が変わる。音の補正というより積極的に音を変える機能ではあるものの、聴き慣れたライブ音源で試すとかなり楽しい。

プレイヤーアプリの左上にあるHIDIZSロゴをタップするとサイドメニューが現れる
「MBES」からはサウンドのカスタマイズも楽しめる

このように、“いまどきのDAP”としての機能を充実させつつ、確とした設計方針に基づき手堅い音作りを実感させる「HIDIZS AP80」。1万円台半ばとはにわかに思えない質感、そしてその音は、DAP入門者どころか経験豊富な層すら唸らせるに違いない。

(海上 忍)

特別企画 協力:飯田ピアノ