スウェーデン少女の訴え、広がる共感

世界の若者、温暖化対策でデモ 大人の無策、無関心を痛烈批判

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地球温暖化阻止に向けた高校生らのデモにスウェーデンから駆けつけ、あいさつするグレタ・トゥンベリさん=2月21日、ブリュッセル(共同)

 地球温暖化に対する大人たちの無策や無関心を痛烈に批判し、早急な対応を求める一人のスウェーデン人少女の訴えが世界に広がってきた。少女はグレタ・トゥンベリさん(16)。昨年夏から授業をボイコットし、首都ストックホルムの議会前で座り込みを続けてきた。「私たちの未来が危機にさらされている」―。世界は温暖化にもっと危機感を持つべきだというトゥンベリさんの主張に共感する若者たちが次々に立ち上がり、欧州各地では大規模な高校生デモが繰り返されている。運動は日本やオーストラリアまで波及、若者たちが世界を変える力を持つのか、注目が集まっている。

「子どもの未来奪うな」

 トゥンベリさんが一気に注目を集めたのは、ポーランドで昨年12月開かれた温暖化対策のための気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)だ。「あなたたちは子どもたちを愛していると言いながら、子どもたちの未来を奪っているのです」。お下げ髪にあどけなさの残るトゥンベリさんが各国の政治家や高官らに投げ掛けた鋭い言葉に、会場は静まりかえった。

 トゥンベリさんが温暖化問題に関心を抱くようになったのは、環境問題に関する地元紙の作文コンテストで賞を取ったことがきっかけだ。昨年2月、米フロリダ州パークランドの高校で起きた銃乱射事件をきっかけに、米国で若者たちが授業をボイコットして「銃犯罪はもうたくさん」と銃規制強化を訴えるデモをしたことにヒントを得て、昨年8月、「学校ストライキ」と名付けて1人で議会前での座り込みを始めた。両親は「賛成はしない。自分の力でやるなら、やりなさい」と目をつぶった。

 温暖化の危機を警告する科学者らの情報を基にしたチラシをまき、ツイッターやフェイスブックなどSNSでも情報発信。トゥンベリさんが一人で始めた運動は地元スウェーデンだけでなく、世界中のメディアの関心を呼び、共鳴する人たちが次々に現れた。

 今年1月に招かれたスイスでの世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では大企業幹部らを前に「あなたたちにパニックになってほしい。家が火事になっているのと同じように行動してほしい」と危機感を訴えた。

世界経済フォーラム年次総会の会場前で座り込むトゥンベリさん=1月25日、スイス・ダボス(ロイター=共同)

 2月22日にはベルギー・ブリュッセルにある欧州連合(EU)の諮問機関「欧州経済社会委員会」で演説し、欧州各国のメディアを前に英語で記者会見も行った。

 気候変動対策について「私たちが失敗すれば、人類の達成や進歩が水泡に帰す。今の政治の遺産は、人類史上の大失敗となり、彼ら(政治家)は最低の悪党として記憶される。彼らは(科学者らの)言うことを聞かず、実行しないことを選んだのだから」と主張。「政治家は私たちと話したがらない。結構です。私だって話したくない。その代わり彼らは(温暖化を警告する)科学者と話すべきです」

 EUは2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で40%超削減する目標を掲げているが、それでは不十分だとトゥンベリさん。「最低でも80%」がEUのあるべき貢献だと訴えた。背後でEUの行政トップ、ユンケル欧州委員長が神妙な表情で聞き入っていた。

 ただ「背後で操る人がいる」「金をもらっているはずだ」という中傷も絶えない。トゥンベリさんは「どの組織にも属していないし、スピーチも自分で書いている」ときっぱり否定。通う学校の校長も活動に好意的で、今では家族もトゥンベリさんの影響を受けて自家用車を電気自動車に変え、ベジタリアンになった。ストックホルムからブリュッセルまでも飛行機は使わず、温室効果ガスの排出が比較的少ない鉄道で移動した。

 ダボス会議でトゥンベリさんと会った国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事はツイッターに「トゥンベリさんのような若者が世界にいるから未来に希望が持てる」と書き込んだ。

行動する若者たち

 トゥンベリさんに共鳴する動きは今年に入って、欧州各地で大きなうねりとなった。英国やドイツ、ベルギー、スイスなどでは若者たちが週1回授業をボイコット。それぞれの都市で高校生らがツイッターやフェイスブックで参加を呼びかけ、多い時には数万人が街頭に出る。2月22日にはこの波が初めて日本へ。高校生や大学生ら約20人が東京の国会議事堂前でプラカードを掲げ「もっと関心を持って」と呼び掛けた。

国会前で地球温暖化に関心を持つよう呼び掛ける学生たち=22日午後、東京・永田町

 ベルギーでは2月21日、高校生らのデモが首都ブリュッセルや他の地方都市で同時に行われ、教室を飛び出した1万人以上の若者が「私たちは気候変動で正義を求める」「今すぐ行動を」といったコールを繰り返しながら、街を練り歩いた。ベルギーの高校生デモは毎週木曜に行われており、この日は7回目だ。

 この日のブリュッセルのデモには約7500人(警察発表)が参加。トゥンベリさんも加わったほか、ドイツやオランダの高校生も駆けつけ、ともに中心部の約4キロを行進した。彼女に触発された若者は、国境を越えた横の連帯も強めつつある。

 工夫を凝らした様々なプラカードが楽しい。「まず行動を。泳ぐのは後」と水泳のイラスト付きのプラカードは、温暖化に伴う海水面上昇、陸地水没への警鐘だ。「私の異性関係は冷え込んでいるのに、気候は熱い。逆にしなくては」と自分で書いた紙を掲げてはにかむ女性も。数人で掲げる大きな横断幕には「自分が直せないものを壊すな」。そして高校生たちが握った拳を開くと、手のひらに黒い字で「私たちの未来は、あなたの手の中に」―。

地球温暖化阻止に向けたデモで、早急な行動を大人たちに求める高校生ら=2月21日、ブリュッセル(共同)

 参加者は、高校生を中心に下は小学生から上は大学生までだろうか。大人は「スチュワード」と呼ばれる安全確保のためのボランティアぐらいだ。デモ行進には加わらず、沿道で「メルシー」「ダンキュー」(ベルギーの公用語フランス語とオランダ語で「ありがとう」の意味)でプラカードを出したり、拍手したりして連帯感を示す大人もいた。沿道の幼稚園では、デモ隊が通る時間に幼児たちが道路に出て、トライアングルなど鳴り物を手に「おにいさん、おねえさん」たちを応援していた。沿道のまなざしは総じて、暖かい。

 ベルギーの法律では小学生は保護者なしで外出できないため、教師が引率する。小学6年生十数人を引率していた市内の男性教師バルツ・コステンさんは「私が誘ったんじゃない。参加は子ども側からの要望です。私は授業をしたかったのだが」と苦笑いした。

 やはり「参加したい」と訴えた生徒10人以上の生徒と参加した教師マルコさんは、行進のスタート地点まで5キロ歩いてきたといい、行進前から「エコ」を意識。デモ参加は社会科の実習として、授業時間に組み込むという。

カリスマ

 学校をサボってベルギー西部の都市ヘントからやってきた16歳の女子高生5人組に参加理由を聞くと「自分たちの将来のことだから。授業より温暖化を止める方が大事」などと口をそろえた。学校の先生はおおむね理解してくれているというが、5人のうち一人は「行かないでほしい。授業の方が大切だ」と教師に言われていた。当然、教室に残って授業を受ける生徒もいる。「デモに行くも行かないも、自由だからね」

 実は、この日のデモはヘントでも行われた。5人組がそれでも電車に乗ってブリュッセルまで出て来た理由は「グレタに会いたいから」。

 参加者の間では、トゥンベリさんの人気はカリスマ的だ。デモ隊や沿道から時折、「グレタ」コールが繰り返され、参加者が掲げるプラカードの中には「グレタを大統領に」といったものも。「全てはグレタがたった一人で始めた。素晴らしい勇気と行動力だ。尊敬するよ」(ブリュッセル近郊の男子高校生)といった称賛は、ともに歩く多くの若者が共有している。

デモ参加者が掲げるプラカードには「グレタを大統領に」(共同)

 トゥンベリさん自身は、愛想をふりまいたり、自分からスローガンなどを叫んだりすることはなく、黙々と歩く。手には「気候のための学校ストライキ」と書かれたプラカード。ストックホルムの国会前に一人で座り込んだ時から、ずっと使っているものだ。

 デモは4キロを約2時間歩いて終了した。ステージが設けられたゴールのブリュッセル南駅前では往年のヒット曲「ウィ・ウィル・ロック・ユー」や「YMCA」などでひとしきり盛り上がった後、ベルギーやオランダ、ドイツなどの高校生が温暖化を止めるために、大人を動かそうと決意表明。そして、最後にトゥンベリさんがあいさつした。

 「あなたがたは、変革を起こすには小さすぎると言うことはありません。わたしたちは世界を変えようとしているだけではなく、世界を救おうとしているのです」。会場をグレタ・コールが包む。翌22日のベルギー有力紙ルソワールの1面トップの見出しは「グレタはスーパースター」だった。

ひるまぬ姿勢

 トゥンベリさんの呼び掛けに呼応する動きが広がりつつあることに、大人たちは動揺と懸念を隠さない。英国のメイ首相の報道官は、若者たちが授業を休んでデモに参加することについて、若者が温暖化問題に関心を持つことは歓迎すべきことだとしながらも「教師が入念に準備した授業の時間を無駄にしている」と批判。オーストラリアのニューサウスウェールズ州の教育相は、3月15日に同州でも予定されているデモに学校をサボって参加した場合には罰を与えると警告した。

 だが、こうした批判にもトゥンベリさんは一切ひるむ姿勢を見せない。率直で力強い言葉で大人たちをやり込める。英首相報道官の発言には「確かにそうかも知れない。でも政治家たちは温暖化に30年も何もせずに時間を無駄にしたわ。そっちの方がちょっと悪いと思うけど」。教育相に対しては「OK。分かりました。でも私たちは気にしない。あなたの(古くさい)発言は博物館行きよ」と真っ向から反論した。

 温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」から離脱したトランプ米大統領に対しても「今行動を起こさなければ、人類の歴史の中で最もひどい悪者の一人とみなされることに気付くべきだ」と切り捨てた。

 ノーベル平和賞を受賞したゴア元米副大統領や、俳優のレオナルド・ディカプリオさんなど温暖化問題に積極的に取り組んでいる著名人がいるが、英紙フィナンシャル・タイムズは「トゥンベリさんの『あなたたちは私たちの未来を奪っている』というシンプルな言葉ほど、今起きていることの本質をつかんだものはない」と指摘した。(共同通信=島崎淳、小熊宏尚)