「リレーコラム」右サイドで強烈な存在感 チリ代表目指す、いわきFCのバスケス

流通経大柏・横田(右)と競り合う青森山田・バスケス=埼玉スタジアム

 年末年始にかけて行われた第97回全国高校サッカー選手権でひときわ目を引く選手がいた。

 2大会ぶり2度目の優勝に輝いた青森山田で、右ウイングから変幻自在のプレーを連発したバスケス・バイロンだ。

 チリ代表入りという大きな目標を掲げる左利きの18歳のプレーは、それを本当に実現してしまうのではないかと思わせるほど強烈だった。

 優勝候補のチームにあっても、存在感は頭一つ抜けていた。

 初戦となった草津東(滋賀)との2回戦。左足でぴたりとボールの勢いを殺し、小刻みに軽く触れながら巧みにキープ。詰めてくる相手が一人だろうが複数だろうが全く動じない。

 ボールに左足のインサイドとアウトサイドで連続して触れて相手二人の間をすり抜け、そのまま低いシュートでニアサイドを射抜いたゴールには会場から感嘆の声が漏れた。

 「警戒されても縦もいけるし、シュートもクロスも引き出しを持っている」。試合後に自信たっぷりに発した言葉に偽りはなかった。

 3回戦以降も鋭い切り込みからミドルシュートでファーポストを強襲したかと思えば、左でシュートと見せかけて足裏でボールをなで、相手を置き去りにするなど切れは抜群だ。

 大会中チームが一番苦しんだ尚志(福島)との準決勝では、エリア内への突破から際どい判定ながらPKを獲得するなど、南米選手特有の「マリーシア」(狡猾さ)も垣間見せた。

 流通経大柏(千葉)との決勝では右足、左足と2度の深い切り返しで敵二人を翻弄し、右足クロスで決勝点を演出。最後まで貢献度は絶大だった。

 分かっていても取れない、そんなインパクトのある選手を見たのは第84回大会を制した野洲(滋賀)の乾貴士(アラベス)以来だ。

 敵が飛び込めない独特の間合いや緩急を既に身につけており、岡崎慎司とともにレスターでプレミアリーグを制したマレズ(マンチェスター・シティー)のプレーを思い起こさせる。

 「今はサラー(リバプール)を、同じスパイクを履きながらイメージしている」と明かし、同じく左利きのメッシ(バルセロナ)など似たポジションで世界を席巻するトップ選手に自らを重ねる。

 小学3年の時に来日し4年からサッカーを始めた。

 身長が6年で166センチありパワープレーも多かったが、中学から埼玉県東松山市の実家前にある公園でドリブル練習を始め、スタイルを変えた。

 多くの高校やJリーグのユースチームに声を掛けられたが「一番成長できる」と青森山田を選択。当初は「守備ができず壁にぶつかった」そうだが、2年から弱点だった右足、さらにはフィジカル強化にも力を注ぎ「このチームになって誰よりも筋トレしてきた。雪があったおかげで足腰も強くなった」。穴のないプレーに当たり負けしない体も加わり一皮むけた。

 外国籍選手に実績のある即戦力を求めるJリーグクラブからは声が掛からなかったが、今季から「日本のフィジカルスタンダードを変える」を理念に掲げる東北社会人リーグ1部のいわきFCでプレーする。

 血液や遺伝子検査を参考にした栄養管理、練習メニュー作成など注目を集める新興クラブでどんな進化を遂げるか、楽しみだ。

 「(チリ代表の)サンチェスもビダルも年だから」と笑う175センチ、68キロ。日本育ちの新星が、近い将来母国を背負って立つかもしれない。

中元 盛千佳(なかもと・もりちか)プロフィル

2012年共同通信入社。本社海外部スポーツ担当を経て17年7月に運動部へ異動。アマチュアスポーツを中心に取材している。愛知県出身。

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