<再生への視点 統一地方選を前に>・8 五島市区 若者の地元定着 戻りたくても“遠い”情報 島外進学で つながり薄れ

 12.9%。五島市内の高校1、2年生を中心に市がこのほど実施したアンケートで、高校や大学などを卒業後も「島内に住み続ける」と答えた生徒の割合だ。実際に毎年、高卒者の8割以上が進学や就職で島を離れ、戻ってくるのはごく一部。島外からの移住促進で一定の成果を上げている同市においても、足元での若者定着に手こずっている。
 市は人口減少対策として独自のU・Iターン促進事業に力を入れ、本年度の移住者は141人(1月末時点)と県内自治体ではトップクラス。地元高校生の島内就職に関しても、県や学校などと連携し、企業説明会やバスツアーを企画している。島内就職率は年々上昇し、昨春の高卒就職者で初めて5割を超えた。
 一方、大きな課題は進学のため島を離れた若者へのアプローチだ。進学者が高卒者の大多数を占めるが、県や市の担当者は「一度島を出た人への情報発信や収集はほぼできず、どれだけ戻ってきたかも不明」と明かす。高校を通じて島内の企業情報などを伝えやすい就職希望者に比べ、進学者には「県内の大学などに企業情報誌を置くくらいが精いっぱい」という。
 「島は不便だし仕事がない。一度島の外を知れば、もう戻るのは無理」-。市内の幼稚園教諭、新井美咲さん(25)は島外で働く同級生から、そんな言葉をよく聞く。実際は、昨年12月時点の五島の有効求人倍率は1.77倍とハローワーク別では県内最高で「仕事がない」わけでもない。ただ、新井さんが進学した県内の大学でも五島の求人が来ることは少なく、「多くの人は希望の職種を選ぶだけの情報がないのでは」と情報の“遠さ”を指摘する。
 島に戻りたい人でも苦労している。谷川楓美香さん(25)は大学4年の就職活動の際、五島で新卒の求人を探したが、4月から働ける会社が見つからなかった。卒業後は家業を手伝うなどして求職活動を続け、昨年1月、市内で障害者雇用支援事業などを展開するトレースエンタープライズに就職。「公務員や、資格が必要な仕事の求人はあっても、それ以外の人は(求める情報が得にくく)就活しづらい」と振り返る。
 高校生アンケートでは「島外に住む」とした生徒の半数近くが、「将来的に戻りたい」とも答えた。こうした声に、市幹部は「都市部で五島出身の若者が交流できる会を開いたり、高卒者に『ふるさと市民』登録を呼び掛けて情報発信を続けたりする必要がある」と話す。若者をいかにつなぎ留め、増やしていけるかが、今後の鍵となる。

毎年、多くの若者が進学や就職で島を離れる=昨年3月、五島市福江港

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