昭和の気動車にお別れ

キハ313・314号の最後の姿。人間ならまさに「遺影」

 昭和の香りがするクリームと朱色のツートンカラーの気動車。茨城県の関東鉄道で、引退するキハ313・314号のさよなら撮影会が開かれた。今回はその模様をリポートしたい。

 2月16日、土曜日。小田急線、東京メトロ千代田線、つくばエクスプレスと乗り継いで関東鉄道常総線に入り、水海道(みつかいどう)駅に到着。受付で参加費3500円を払うと、1000円分のさよなら記念乗車券、クリアファイル、オリジナル缶バッジなどが手渡された。鉄道写真を撮り始めて40年以上になるが、事前申し込み、参加料が必要な撮影イベントは初めの経験だ。

 午前10時10分、150人の参加者はA班、B班に分かれ、2両編成の臨時列車で近くの車両基地に向かう。現役の気動車が居並ぶ場所から少し離れたところで降車し、車庫前の線路を挟んでスタンバイ。その線路が“最後の花道”となり、遠くからゆっくりと本日の主役が入場してきた。

 撮影会はトラブルや不公平がないよう、工夫されていた。まずA班の参加者が、車両から少し離れた「遠目」からの撮影。その間、B班の参加者はグッズ販売や飲食の屋台に案内される。20分たつとA班とB班が入れ替わり、今度はB班が20分の撮影タイム。次は同じ流れでA班、B班の順に「近目」から「フリー」の撮影と進んだ。

 天候に恵まれた上に、きれいに光が当たる(撮り鉄用語で“バリ順”)場所にキハが置かれ、申し分のない撮影環境だった。

 当日いただいた資料によると、キハ313・314号は元国鉄キハ16形の機関(エンジン)や台車を流用し、車体を新造して1977(昭和52)年にデビュー。一昨年5月の「乗り納め乗車会」が最後の本線走行になったという。7年前からの「リバイバル塗装」が、所々ひび割れていたのは仕方ない。

(上)去りゆく昭和の気動車と、平成の次の時代を走る気動車、(下)竜ケ崎線を走るキハ532。少し曇ってしまったのが残念

 最後に参加者全員がキハの前に集合。すると後方の車庫のシャッターが開き、デビューを控えた新型車両のキハ5020形が姿を現した。ゆっくり前進し、キハ313・314号の隣にぴったり並ぶ。事前の予告なしに実現した最初で最後の顔合わせに、夢中でシャッターを切ったのは言うまでもない。

 約3時間の撮影会が無事終了し、再び臨時列車で水海道駅に戻る。ドアを開け放ったキハ313・314号の横をゆっくりと通過。お別れの汽笛が響き「これを持ちまして(2両は)解体となります。長い間愛してくださいまして、本当にありがとうございました」と感傷的な車内アナウンスがあった。

 引退する列車のラストランに集まる鉄道ファンのことを“葬式鉄”と呼んだりする。この日の撮影会を終え、3500円の香典を持参して昭和の気動車のお葬式に参列したような気分になった。

 ☆藤戸浩一 共同通信社勤務 撮影会の後、関東鉄道のもう一つの路線、竜ケ崎線を訪れた。3年前の6月の訪問時には車庫で休んでいたキハ532が元気に走っていた。この昭和の気動車(81年製)には、引退の予定はないそうだ。

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