『ハローキティの一日一禅』武山廣道監修 生きるためのレッスン本

 仕事を選ばなさすぎることで有名だったハローキティ。今年はGODIVA、JR西日本、クレしんにリカちゃん(遠近感狂う~)、プラレールと消臭芳香剤(おおう)などとのコラボが決まっているらしいのですが、この度なんと、本が出ました。コラボ相手はなんと、禅。ドドン。

 実を言うと、禅にはずっと興味がありました。『心を整える。』を読んでも一向に整わなかった精神の持ち主です。あとは座禅か……とも思っていたのですが、いかんせん敷居が高そう。朝早そう。それに家の宗派も怪しいほどに信心深さゼロの者です(大人になってから、母に「うちは浄土宗?浄土真宗?」と尋ねたら「どっちかやねん」と返ってきました。罰してください)。そんな意識の低い者に座禅なんて……と、ここ5年くらい(そんなにかよ)浮かんでは消えていた者としては、禅の本、しかもキティちゃん、というのは、なんかもう、手にしないわけにはいかないわけであります。さらに言うと、キティちゃんが一番かわいい時代(意見には個人差があります)の1970年代、オールドファッションキティです、おそらく。これは買いでしょう。

 本書は、禅の教えをやさしく噛み砕き紹介した、絵本のような一冊。「元気にしてた?」「ひと休みしない?」「無理しなくて大丈夫だよ」「今日もいい日にしよう」「そのままがいちばん」という5つの章で構成されている。その見出しからもわかるように、キティちゃんからのメッセージとして、禅の精神を語る文体が印象的だ。

 たとえば「一期一会」は「いつもあんまり気にしないけど、たった一度の出会い、って本当はたくさんあるよね。今日もきっと、そんな出会いがある。ぼんやりしていて

見逃さないようにしなきゃね。」……という感じ。

 禅の教えが、昔もらったおばあちゃんからの手紙のような温かい文章で綴られている。それと本書で知ったんですが、「挨拶」「主人公」「喝」「老婆心」という言葉は、禅から来ているんですね。知らなかった。このように、普段の暮らしの中に溶け込んでいる考えが随所に散りばめられているので、読んでいて気持ちがいい。スッと心に入る感じ。

 馴染みのある教えもあれば、一方で「一夜落花雨 満城流水香(いちやらっかのあめ まんじょうりゅうすいかんばし)」というような、見たことも聞いたこともないのに、「知ってる、この悲しみ」と思わず声を出したくなるほどの、生きる上でどうしてもぶつかる小さな絶望まで、優しい言葉で、そして希望で包んで教えてくれる。

 キティちゃんとその仲間たちの表情が、微笑んでいるようにも泣いているようにも見えるのも印象的だ。禅とキティ、意外にも相性抜群かもしれない。さびしさと悲しみと、どうにもなさに囲まれながら、それでも笑顔で優しく暮らす、これは生きるためのレッスンの本だ。

(リベラル社 1000円+税)=アリー・マントワネット

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