「鬼の居ぬ間に…」を恐れた金正恩氏、国内でガチガチの警戒態勢

米朝首脳会談のためにベトナムを訪れている北朝鮮の金正恩党委員長。ベトナムには3月2日まで滞在予定だが、長い間国を留守にすることに対しては「体制の維持に自信ができた証拠」などとの見方がなされている。

一方の北朝鮮国内では、ガチガチの警戒態勢が敷かれている。過去にも金正恩氏の暗殺未遂を秘密警察が報告したことがあった。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、平城市の人民保安機関(警察など)は、米朝首脳会談と、国会にあたる最高人民会議の代議員選挙(10日)を控え、統制を強化している。

市内では保安員(警察官)1人に労働者糾察隊5人を1組として、管轄区域を24時間体制で監視させている。身分が証明できない者が見つかれば有無を言わさず勾留処分とし、身分が確認できるまで釈放しない。

工場、企業所、農場では従業員の出欠や人の出入りをチェックするなど、神経質なほどの動向監視を行っている。

朝鮮労働党、市の人民委員会(市役所)、金日成ー金正日主義青年同盟、朝鮮職業総同盟、朝鮮農業勤労者同盟のイルクン(幹部)は、金日成主席、金正日総書記の銅像、選挙の投票所など重要施設の警備に駆り出され、ろくに帰宅もできない有様だ。

北朝鮮の流通の中心地である平城(ピョンソン)には、多くの他地方出身者が暮らしていると言われているが、当局は住民登録をしていない人を旅行者集結所に連行し、労働鍛錬隊(軽犯罪者を収容する刑務所)送りにして強制労働をさせている。中には、教化所(一般の刑務所)行きになる人すらいるとのことだ。

これは治安対策であると同時に、選挙対策でもある。

当局は選挙のたびに住民登録の整理事業を行う。商売などの理由で他地方に住んでいる人は、住民登録をしている地域に戻らず投票をしなければ脱北者扱いされ、政治的な不利益をこうむりかねない。そのため大慌てで戻るのだが、中には居座る人もいる。それが明るみに出れば当の本人はもちろん、地域担当の保安員(警察官)なども処罰されかねない。そこで、強硬な手段を使ってでも送り返そうとするのだ。

家を出たままで帰らない家族のいる人たちは、累が及ぶことを恐れ、保安員や人民班長(町内会長)にワイロを掴ませ、死んだことにしてしまう。

このような厳戒態勢は、昨年4月の南北首脳会談、6月の1回目の米朝首脳会談のときにも敷かれていた。それのみならず、重要な政治的イベントに際して、統制が強化されるのは毎回のことだ。

結局、金正恩氏は今のような抑圧体制が続ける限り、「人民の反乱」におびえて暮らすしか無いのだ。

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