【高校野球】野球人口低下を止めたい― 未就学児1000人を集めた都内高校生らの試み

東京都高野連が行った「ティーボール教室」の様子【写真提供:東京都高等学校野球連盟】

昨年末から1月にティーボール教室を34か所で開催

 東京都高等学校野球連盟が昨年12月から1月にかけて、高校野球の未来を考える「高校野球200年構想」の一環で、未就学児から小学校低学年を対象とした「ティーボール教室」を行った。都内34か所の高校グラウンドや学校施設、野球場で普及活動し、約2か月間で1177人もの児童が参加。盛況に終わった。野球人口が減少傾向の中、短期間でどのようにして1000人以上の子供たちを集めることができたのか。東京都高野連・野球振興部の本橋良男理事、野口哲男理事(都昭和教諭)、桑原直樹理事(成蹊高教諭)の3人に話を聞いた。

 昨夏、100回の記念大会を終えた甲子園大会。日本高校野球連盟と朝日新聞社、毎日新聞社は「次の100年」に向けた行動計画を発表し、野球の底辺拡大について会議を重ねている。その中で、東京都高野連が取り組んでいくことを決めたのは、200年構想の提案の半年前から東京都高野連では常務理事会で準備を進めていたティーボール野球教室の実施だった。

 本橋理事「200年構想の一環ではありますが、東京都も何かをしないといけないと前から思っていました。日本高野連がそのような話になったのをきっかけに、東京はティーボールを推進していこうという話になりました」

 ティーボールとは野球やソフトボールに似たルールだが、投手は存在せず、バッティングティーに乗せたポリウレタン製、または表皮天然ゴムの柔らかいボールを打つ競技。アメリカやカナダなどでも普及しており、近年では日本の小学校でも授業に取り入れられている。日本ティーボール協会が制定した公式規則の中でプレーする全国大会もあり、老若男女に楽しまれているスポーツだ。

 高校野球に携わる身として、野球人口の低下は肌で感じているという。

 野口理事「私の子供が小学校で少年野球をやっているのですが、古くからあるチームがなくなっています。こういう話を聞くと野球をやる子は減っているんだと思います。東京の高校野球の大会でも連合チームも増え、裾野が減ってきている気がします」

 単独では部員が足りず、近隣の複数の学校と連合で結成する連合チームが20年前と比べ、東・西東京大会でも増えている。全国的に見ても、増加傾向だ。また、都内の中学校では、部活動でも土日のどちらかを休まないといけないという声もあり、中学校で野球をやる部員数も減っているという。

 何もしなければ始まらない――。東京都高野連は他の都道府県ではあまり例のない野球振興部というセクションを一昨年に立ち上げた。東東京、西東京で責任者を決め、ティーボール教室の予算、実施する会場数の決定、球場の手配と管理、子供への指導案など実務などの役割を決めた。本橋理事に日本ティーボール協会に従事する知人もおり、協力も得られた。今回の東京都のティーボール教室を視察にきた他の都道府県の高野連スタッフが構築された東京都の試みに驚くほど、基盤はしっかりとしたものだった。

 ティーボール教室実施のプランに都内の30校以上が賛同。2018年末から2019年1月にかけて実施することが決まった。

野球部員が参加した子供たちと一緒に体を動かした【写真提供:東京都高等学校野球連盟】

野球人口が低下している中で果たして人は集まるのか、チラシや駅にポスターなどで告知

 次なる課題は、どのようにして、人を集めるのか。各学校で知恵を振り絞った。

 桑原理事「初年度ですから、いろんなやり方があってもいいと思いました。私たちの学校では近隣のいくつかの保育園に声をかけました。(高校の)開校記念日が平日にあったので、その日に実施しました。子供たちは野球に興味があってきたわけではなく、いつもと同じように保育園に登園し、先生に連れられてここにきた感じではありましたが、50名ほど参加してくれて、ティーボールを楽しんでいってもらいました。今度は保護者の方にも見ていただきたいですね」

 他の学校では近くの児童館に声をかけて、そこに来る子供たちの保護者に制作したポスターやチラシを見てもらい、声をかけた。地元の駅にポスターを貼った学校もあったりした。地域のお店にも配って、お客さんにアプローチもしてもらった。

 武蔵野北高校では野球部員、マネージャーら自らが動いた。地元の幼稚園、小学校の数、クラスの数まで調べて、各クラスに10枚は届くようにチラシを制作。生徒たちがそれを配った。生徒たちの自主性や考える力も伸ばす良い機会となった。その結果、40人を超える子供たちが来て、楽しい時間を過ごしていった。

 本橋理事「最初はどうなるかと思いましたが、34か所で小学生低学年が587人。未就学児590人。合計で1177人が集まりました」

 ティーボール教室の内容や時間は学校によっても異なるが、大体が1時間半から2時間くらいの活動だった。高校生が少年少女たちとペアになり、ウォーミングアップやキャッチボール、投げる、捕る、打つなどの動きを一緒に行った。最後の20~30分は、ゲーム形式でティーボールを楽しんだ。学校によっては、普段の部活の練習時間を割いて、イベントの準備に充てていたところもあった。

 高校生も子供たちも、胸には名札をつけて、互いに名前を呼び合う。うまくいったら「イエーイ」と歓声を上げて、ハイタッチを交わす。子供が喜んでいる姿に親も自然と笑顔になった。最後に一緒に記念撮影をするペアもあった。各会場で決められた予算の中で告知や飲み物など運営にかかわるものを用意。中にはお土産を用意したり、親のためにカイロを準備したりする生徒もいた。ちょうど、クリスマスの時期だったため、サンタクロースやトナカイの衣装をそろえたりする学校もあった。

 最後は高校生による実技披露で締める学校が多かった。硬式球のフリーバッティングで遠くに打球をかっ飛ばす。子供たちの夢を乗せた白球が外野のさらに奥で弾んだ。「おおーっ!」「すごーい!」。少年たちの目が輝いていく。いつかこの子供たちが野球を始めてくれればいい。大会の応援に来てくれればいい。先生も生徒も、そして参加した子供にとってもかけがえのない時間となったはずだ。

 本橋理事「先生も普段、見たことない一生懸命に子供たちに教える生徒の姿に喜んだと思いますし、生徒たちも子供たちから『ありがとう』と言われるのは、うれしかったと思いますよ。子供たちは純粋に楽しかったと感じてくれればうれしいです」

 高校野球は勝ち負けだけがすべてではない。ボールを通じて、コミュニケーションをとって、人間としての成長が生まれる。今回は野球振興が大きな目的だったが、生徒たちにも大きなプラスになった。そして、1000人を超える子供たちが集まったことはとても意義のある活動だ。全員が野球に目覚めたかどうかはわからないし、いつか他のスポーツと並行しながら、野球もやるという少年が増えてもいいとも思う。その時に出てきた新たな課題と向き合い、これを継続していくことが何よりも大切なことだ。今後もこのような活動を見守っていきたい。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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