ドナルド・キーンさんとの縁

 先日、96歳で死去した日本文学研究者のドナルド・キーンさん。三島由紀夫や川端康成らの作品を英訳して世界に紹介したことで知られ、日本文化を深く理解する知識人だった▲1998年、キーンさんは大村市など主催の歴史シンポジウムに参加したことがある。歴史作家の永井路子さんや歴史研究家の網野善彦さんら日本を代表する文化人が、長崎を経由して広がっていった文化を論じる意欲的な催しだった▲当時、市職員だった新長崎学研究会代表の稲富裕和さんは、出演交渉のため東京のキーンさんの自宅を訪ねた。高名な学者であるにもかかわらず、質素なアパート住まいが印象的だった▲シンポジウムでキーンさんは「世界の中の日本」という題で記念講演。日本に対する外国人の知識不足や外国人に対する日本人の偏見の存在を指摘した。現在にも通じる課題だ▲歓迎の食事会で、稲富さんはキーンさんの隣に座ることになった。緊張しながら「長崎方言の『ばってん』は英語の『but then』から来たと言う米国人がいるが」と話題を振ると、キーンさんは笑って「それはうそ」と答えたという▲口数が少なく物腰の柔らかい人だったと振り返る稲富さん。その後年賀状のやりとりが続いた。日本を愛したキーンさんは、本県でも縁を結んでいた。(泉)

© 株式会社長崎新聞社