<再生への視点 統一地方選を前に>・10 壱岐市区 インバウンド 受け入れインフラ大切 知恵絞り 魅力発信を

 美しい海と砂浜が目前に広がる壱岐市勝本町の串山キャンプ場。壱岐の食材を使った料理が並び、韓国人男性の李圭珍(リキュジン)さん(50)は「最高においしい」と舌鼓を打った。
 冬のオフシーズンにも壱岐へのインバウンド(訪日外国人客)を増やそうと、市が韓国の旅行会社や旅行雑誌の関係者らを招き、2月に実施した1泊2日のモニターツアー。博多港から高速船で来島した4人が、猿岩といった景勝地、世界貿易機関(WTO)から地理的表示の産地指定を受けた壱岐焼酎の蔵などを市職員らの案内で巡った。
 壱岐の食や自然のPRに重点を置いた今回の旅行プラン。てこ入れを図る背景には、外国人観光客を巡る数字がある。県観光統計によると、2017年に壱岐を訪れた外国人延べ宿泊者数は2100人。前年から約1060人増えたとはいえ、同じ離島の対馬市が約19万7千人だったのに比べると、明暗はくっきりしている。高齢化と人口減が進み、経済が縮小傾向にある地方において、訪日客をどう呼び込み、消費に結び付けていくかも活性化への鍵の一つだ。
 食べ物のおいしさ、人の良さ、ホスピタリティーの高さ-。壱岐の魅力を上げていった李さん。一方で、アクセスの悪さがネックだとした。「韓国から対馬へは船で直接渡れるが、壱岐へは乗り継ぎが必要。そうなると足が向かない」
 博多港や唐津港からの海路を利用するには、空港から港まで陸路での移動が必要。定期航空路も、現状は長崎空港を結ぶ便しか就航していない。関西方面から直接、空路でのインバウンド獲得も視野に入れる市は、壱岐空港の滑走路延長について県に要望を重ねているが、県側は「莫大(ばくだい)な費用がかかる」(中村法道知事)と難色を示している。
 こうした中でも、市や民間が手をこまねいているわけではない。市は外国語表記の観光パンフレットを作製。宿泊施設などに補助金を交付し、無料公衆無線LANを整備している。
 民間も取り組みを進める。勝本町で果物店を営む下條明博さん(51)は、1月末からキャッシュレス決済を導入。周辺の商店約30店のうち半数以上が今月中に導入予定だ。下條さんは「受け入れインフラが整備されていることが大切」と話す。
 多くの観光客と接してきた宿泊業者からは「壱岐でないとできない体験プランづくりが必要」(ビューホテル壱岐の吉田繁社長)といった声も上がる。行政や民間が知恵を絞り、壱岐の魅力をどう発信し、差別化を図るか-。インバウンド獲得への課題は多い。

キャッシュレス決済の方法を教える下條さん(奥)=壱岐市内

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