【MLB】「できていく感じ、作っていくより」―イチロー、取り戻しつつある“実戦勘”

ブルワーズ戦に「7番・右翼」でスタメン出場したマリナーズ・イチロー【写真:田口有史】

ブルワーズ戦で4試合ぶりヒット「振りにいかないと振れないから」

 1日(日本時間2日)のブルワーズ戦で、4試合ぶりのヒットを放ったマリナーズのイチロー外野手は相手右腕バーンズの初球を狙っていた。2回裏、先頭のサンタナが左翼へ一発を放った直後に立った第1打席、97マイル(約157キロ)の剛球を弾き返し長身右腕の股間をゴロで抜いた。

 イチローは8打席ぶりの1本をこう振り返っている。

「振りにいかないと振れないから。知らないピッチャーだしね。とりあえずそういう姿勢でいかないと」

 2月22日のオープン戦初出場で適時右前打を放ってからちょうど1週間目の快音。この間の7打席で徐々に“勘”を取り戻しつつある様子。この間、打席ではフォームを試行錯誤。キャンプ初日から両膝を深く曲げて重心を下げ、軸足にタメを作ってから振り出す新打法は、2日ほど前から両膝の曲げ方を浅めにしている。言葉の行間には、イメージと一連の体とが一致するようになったとの含みも感じられる。

 見逃せないのは、5回の第3打席だった。内角高め94マイル(約151キロ)の速球にバットが空を切り三振に倒れた。が、その直前に放ったファールは全盛期の公式戦でよく目にした三塁スタンドへの強い打球のファール。引っ張れば一塁への凡打かバットをへし折られる確率が高くなる、右投手の外角から内へと変化する球に、左肩を開かずバットをボールの内側へ入れる真骨頂のスイング。

走攻守で実戦勘を確認「できていく感じですね、作っていくというより」

 今年1月に史上初の得票率100%で殿堂入りを果たした歴代最高652セーブを誇るマリアノ・リベラの宝刀、カットボールをそのバットの軌道で何度もファールで凌いだシーンが浮かび来る。久々に見る“らしいファール”に着実に進める調整の確かな手応えを感じ取ったはずだ。

 唯一なかった守備機会を得たのは4回。1死一塁で上がった浅いフライを難なく捕球。16イニング目で初遭遇したプレーだったが「リズムもありますから。(打球が)来ないからといって何もないということはないです」と話す。試合前の練習では、頭上に上がる打球に背走し後ろ向きのままキャッチ。フェンス際の大飛球を追う想定の動きを見せるなど、フリー打撃で守る外野での時間も大切なイメージ作りの場である。

 ヒットで出た一塁では、バーンズの執拗な牽制に3度続けて手から帰塁。走攻守で実戦勘を確認するプロセスを「できていく感じですね、作っていくというより」と説明したイチロー。問われたその進展度をこう結んだ。

「言わなきゃいけないかな、僕が……」

 敢えて語らず――。言葉が残す余韻にこの日の充実度が漂う。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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