若者に戦争伝えたい Vチューバーに挑戦した被爆者

ネットで変身!Vチューバーの世界・上

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 アニメ風の美少女キャラクターなどを動かしてネットで動画配信を行う「バーチャルユーチューバー」(Vチューバー)。今や全国で5千人以上が活動しているとされ、若者を中心に注目が集まっている。サブカルチャーのエンターテインメントとして知られるが、コミュニケーションの手段としても新たな可能性があるらしい。長崎県内外の関係者らを取材した。

 「原爆の恐ろしさや戦争の悲惨さを若者に分かりやすく伝えたい」-。そんな思いでVチューバーに挑戦した長崎市の被爆者がいる。入市被爆し放射線の影響で家族を亡くしたという森口貢(みつぎ)さん(82)。昨年8月15日の終戦記念日の夜、NHKのテレビ番組にVチューバー「無念じい」として生出演。少年時代の森口さんに似せたアニメ風のキャラクターを操りながら、戦争体験や被爆者から聞き取った話を語った。

 ■きっかけに
 番組は「テンゴちゃん 8.15 無念じいといっしょ」。出演を打診された森口さんは当初、「いきなりVチューバーになってくれと言われても何をしていいのか分からず、あまり気乗りしなかった」と振り返る。しかし「若者が戦時中の出来事に少しでも関心を持つきっかけになれば」と思い直し、承諾。かつて、講話をした修学旅行生から暴言を吐かれた経験から、「若者世代に思いが伝わらない無念さ」をずっと感じていたためだ。
 収録当日、東京都渋谷区のスタジオを訪れ、Vチューバー用の「ヘッドマウントディスプレー(HMD)」を頭に装着。慣れない視界に戸惑いながらもコントローラーを握り、キャラクターを操作した。「防空壕(ごう)にいると、爆弾がドーンとさく裂する音が聞こえて恐ろしかった。必死で神様に祈った」などと空襲での体験を身ぶり手ぶりを交え伝えると、画面には一生懸命に語る少年のキャラクターが映し出された。「母親と生まれたばかりの子どもが黒焦げになっているのを見た人がいた」。聞き取った悲惨な被爆体験も語った。

 ■反響大きく
 放送中、視聴者に番組のホームページやツイッターで質問や感想を募る企画も。「平和であることの幸せを再認識できた」「重たいテーマだったが心に刺さった」など、寄せられた投稿は約1万5千件を超えた。番組の制作担当者は「アニメの少年というビジュアルにしたことで、戦争の話でも若い視聴者を身構えさせず本音を聞くことができた」と分析した。
 反響の大きさに森口さんは「若者は戦争に対して無関心というわけではない。むしろ、もっと深い内容を知りたがっている」と実感。放送後、必要な知識や機材がないためVチューバーの活動はしていないが、「機会があれば再びチャレンジしたい」と意欲的だ。
 「一方的に被爆者が惨状を伝えるだけでなく、若者と一緒に平和について考えることが必要。そのためには世代を超えたつながりが大切。そのことを改めて再認識できた」

Vチューバーに挑戦した体験を語る森口さん=長崎市目覚町、長崎の証言の会事務所
森口さんが操り、戦争体験を語るキャラクター(NHK提供)