抱き合うさまを

 人と人とが背を向け合っているさまを「北」という字は表すという。手元の辞書を引けば「そむく、そむける」の意味が並ぶ▲おととしの暮れ、世相を1文字で表す「今年の漢字」に「北」が選ばれた。「北朝鮮が核・ミサイル実験で世界を揺さぶったから」というのが主な理由で、独り善がりな国が世界に背を向けた年だった▲揺さぶりは影を潜めているが、その国が「そむく」ではなく、完全な非核化に「応じる」日は、まだ遠いのかといぶかしむ。北朝鮮、米国の2度目のトップ会談は物別れに終わり、非核化が滞ることに落胆が広がった▲ため息ならば、拉致被害者の家族もまた深い。首脳会談では拉致の問題が取り上げられ、議論したというのだが、何かが一つでも進んだ様子はうかがえない▲訴えても伝わらないもどかしさと焦りを、家族は募らせている。会談を受けて、北朝鮮と直接交渉するよう日本政府に求める声も上がった。横田めぐみさんの母早紀江さん(83)は会見で「私は長い間、闘ってきた。あとは祈るしかない」と語っている▲41年もの間、やれるだけやってきて、娘をひたすら待つ人の言葉が胸に重い。背を向け合う「北」の字とは正反対に「ただいま」「おかえり、待っていたよ」と抱き合うさまを、家族はこの先また、幾たび思い描くのだろう。(徹)

© 株式会社長崎新聞社